[63] 最終映画『シン・ゴジラ』は私を虚構から撤退させる

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私は、このブログやフェイスブックにおいて、ギャアギャアと暑苦しく『シン・ゴジラ』賛美を繰り返した。

それで、この映画を見に出かけてくださった方々も少なくなかったようだ。

すみません。うるさくて。

元同僚で畏友の安全保障学研究者の松村昌廣氏までもが、『シン・ゴジラ』を観に行ったそうだ。

私は仰天した。

社会科学者の松村氏は、映画とか小説とか演劇とかフィクションなどは、プロパガンダの道具であること以外にはおよそ無意味で無駄であると考えている人物である。

で、以下のメッセージを私によこした。

(以下、転載始め)

「シン・ゴジラ観てきた。設定がいい加減だけど、社会風刺としては大変良くできていた。しかし、現実もっとえげつないから、怪獣云々別としても、所詮「作りもん」「フィクション」ということで、不満足だった。実際の世界を分析した方が、もっとエキサイティングだと思うよ」

(以上、転載終わり)

このメッセージについて、私は「ムカッ」とはしなかった。

なぜならば、文脈は違うが、松村氏の見解とそう遠くない地点に来てしまったからだ、私が。

『シン・ゴジラ』に出会ってしまったがゆえに、「もう、映画はいい・・・映画は映画だ。しょせんは映画だ・・・」と思い至ってしまったのだ。

その意味で、『シン・ゴジラ』は、私にとっての「最終映画」である。

私は、48歳まで英文学研究者であったのだが、アイン・ランド(Ayn Rand:1905-1982)の『水源』(The Fountainhead, 1943)に出会ってしまったので、文学研究から撤退した。

「もう、これ以上の小説には出会えないだろう」と思って、英文学会もアメリカ文学会も退会してしまった。

私にとって、アイン・ランドの『水源』が「最終小説」となってしまったように、『シン・ゴジラ』は「最終映画」になってしまった。

もう、これ以上の映画には私的には出会えないだろう。

ということは、映画好きの私から、映画鑑賞という喜びが奪われたということである。

たとえば、すっごい魅力的で常に進化し続けている人間で、話していてもすっごく面白くて、自分が刺激されるし、たまたま容貌も自分の好みで、個人的に好意をもつことができて、相手も自分に好意を持ってくれて、友人になれたとする。

そうなると、もう他の友人なんか要らないなあ~~と思ってしまうってことないですか?

誰といっしょにいても、物足りなくなっちゃう。

ついつい、その友人と比較してしまう。

そういう友人は、「最終友人」なのである。

そういう「最終友人」と出会えたことは幸運で至福なことではあるが、他の人々と友人になるという機会は奪われる。

そういう「最終友人」が恋人とか妻とか夫とかになると、そのような人間は滅茶苦茶に稀有なほどに幸福ではある。

だが、他の人間と深く関わる機会は喪失する。

そのような人間との別離は残酷なほどの辛さと孤独をもたらす。

幸福とは、不幸と同義語だよん。

話を元に戻す。

『シン・ゴジラ』は、非常によくできた映画である。

「虚構」として、非常によく構成され構築されている。

奇跡のように面白い!!!

だからこそ、逆説的に、「どんなに良くできていても、虚構は虚構だな・・・」ということを思い知らせる映画になっている。

映画だから、虚構だから、119分で、とりあえずの解決が成就する。

でも、現実には、内閣官房副長官「矢口蘭堂」のような、閣僚会議でも臆せずに自分の見解を言うようなエリート2世(3世なんかな?)政治家なんて存在しない。

「先の大戦では、軍部の根拠のない自分に都合よく考える楽観主義のために、300万人もの日本人の命が奪われました。甘く考えるのは危険です」と、上司に物言えるような若き国会議員なんて存在しない。

三馬鹿大将みたいな3人の御用学者の意見や閣僚の無知蒙昧さなど歯牙にもかけずに、的確に巨大不明生物の機能を判断し、それを明言できる環境省自然環境局野生生物課長補佐「尾頭ヒロミ」など存在しない。

首相に媚びを売らずに、言うべきことはきっちり進言するような閣僚など、ほんとうは存在しない。

すぐに米軍に頼ろうとする外務大臣に対して、「日本の防衛は日本人と自衛隊がするべきだ」と言う防衛大臣「花森麗子」なんて、存在しない。

各官公庁から「精鋭」が集められ、官邸内に「巨大不明生物特設災害対策本部」が設置され、この「巨災対」こそが、ゴジラを凍結させる官民一体の「ヤシオリ作戦」を生み出し、東京を国連軍の核攻撃から守る。

その「精鋭」とは、各官公庁では、「そもそも出世に無縁な霞ヶ関のはぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者」であり、あとは「学会の異端視」である。

そういう個性の強い、自分の信念を曲げない人間でなければ、国家存亡の危機の時には、役に立たないということで、彼らや彼女たちは集められた。

しかし、現実には、そういう人間は、たとえば、そもそも官公庁に採用されない(と思う)。

昔風に言えば「上級公務員試験」合格者は、キャリア組は、難解な試験を合格しなければならない俊英ではあるが、最終的にはコネで採用されるんである(と思う)。

そういうもんである(と思う)。

文部科学省なんかに、研究振興局基礎研究振興課長の「安田」なんて、気持ちのいい「役人」がいるもんか!

この人物は、自分が間違っていると知ると素直に謝ることができるんである。

ゴジラのエネルギー源は、ゴジラ体内の核分裂だと推測した尾頭ヒロミを、馬鹿にしてしまったことを、ちゃんと謝ってたぞ。

閣僚がゴジラの攻撃で死滅しちゃったあとに、たまたまオーストラリア外遊中だったので生き残った農林水産大臣のパッとしない臨時首相代理「里美祐介」が、見かけによらず胆力がある。

彼は、属国日本の歴代首相らしくなく動き、自主的に外交的手段を粘り強く使用することによって、日本を核攻撃から救う。

なんてことは、まず現実ではありえない。

ましてや、アメリカ大統領特使が、たまたま日系三世の大物上院議員の長女のカヨコ・アン・パターソンであり、アメリカの国益を危険にさらし、自分の野心や栄達を犠牲にして、「祖母の国の」東京への核攻撃を延期させるなんて展開はありえない。

実際に、ゴジラ襲来に似た類の深刻な国難に日本が襲われたら、「対馬沖に不穏な動き」があるどころではない。

状況によっては、中国や、中国にせっつかれた韓国や北朝鮮が何を仕掛けてくるか、わからない。

地政学的に近い中国やロシアが東京を見捨ててでも、自国の安全を図るのは当然のことだ。

ついでに、今どきの(似非)エリートたちが不眠不休で国難に対処するとも思えない。

おそらくサッサと国外逃亡するのではないか。

国と心中する気などなれないだろう、エリートは。

どこでも生きていけるスペックがあるのがエリートなんだから。

ほんと、映画『シン・ゴジラ』は、虚構であることを忘れさせるほどに、よくできた虚構である。

だから、観客は、設定や展開の荒唐無稽さやご都合主義を意識できない。

でも、うまく構成され構築された虚構であるからこそ、「虚構ができることは、ここまでだな・・・」と、観客が気がついてしまう逆説もあるのだ。

私は、『シン・ゴジラ』を、今までのところ4回見て、4回とも感激した。

4回とも、吸い込まれるように集中して観た。

と同時に、私は、「映画は映画だ。それがわかってしまった以上は、もう映画として楽しむだけではすまなくなった。

事実としての政治や外交や安全保障について知らないといけない」と思ってしまった。

私の余暇活動は、長く「映像物語消費」であった。

最近は、amazonのプライム会員(1年会費3900円)に登録して映画見放題とか、アメリカの連続TVドラマ見放題とかで、楽しんでいた。

福田雄一監督の『変態仮面』なんて、娯楽作品としての一流の馬鹿馬鹿しさが凄い!!

女性のみなさん、ものすっごく美しい「男体」が拝めますよ・・・

ところが、ところがである。

『シン・ゴジラ』を見てしまったので、その他の映画はすべて退屈になってしまった。

映画は映画だ。

虚構は虚構でしかない。

しかし、現実の諸相は、私のような庶民には簡単に見えるものではない。

それでも、時間潰しの楽しみが消えてしまったのだから、現実の諸相が垣間見えるようなことを求めていくしかない。

ああ・・・なんという地点に来てしまったの、私は。

ああ・・・夢も怖れもない境地って、こういうもんかしらん。

『シン・ゴジラ』は、私にとって祝福であり、かつ呪いだ。

それでも、きっと私はまた観に行く。

最終映画「シン・ゴジラ」を。

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私にとっての最終小説=アイン・ランド『水源』

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