[70] 政治映画としての『シン・ゴジラ』   日本は対米従属からバランス・オブ・パワーを目指す?

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とうとう9月になってしまった。

これを書いたら、福山にひとまず戻る。

夏休みは終わった。

7月30日に映画館に行って『シン・ゴジラ』を観てから1ヶ月以上が過ぎた。

計6回『シン・ゴジラ』を観た。

2016年8月の私は、『シン・ゴジラ』ヒステリーと呼ぶべきような状態であった。

ああ……幸せであった。

ところで、『シン・ゴジラ』は、日本映画としては珍しく明確な政治映画である。

映画の前半は、政治的意思決定に時間のかかる民主主義の手続きの問題が風刺されていた。

自然災害でもなく、外国でもなく、テロでもないものの攻撃に、自衛隊の防衛出動を要請できない。法律にないことは、できない。

ということで、巨大不明生物を想定した法律を急遽、立法制定するドタバタも描かれていた。

しかし、何よりも、この映画が政治映画であるのは、対米従属一辺倒であった日本政府が、主体的に「バランス・オブ・パワー」外交 を実践したという設定である。

「バランス・オブ・パワー」、つまり「勢力の均衡」というのは、「世界は、5つとか6つの大国がお互いを牽制しあって動く」という考えだ。

日本は、戦後ずっと、アメリカの属国として、アメリカの意思に抵抗することはなかった。

日本にとっては、世界はアメリカという覇権国に支配される一極化したものだったから。

しかし、事実は、そうではない。

無敵な世界覇権国としてのアメリカ合衆国、世界帝国としてのアメリカ合衆国というのは、ほんとうは、幻想だ。

アメリカ人と日本人と韓国人と、せいぜいが台湾人くらいしか共有していないイメージだ。

アメリカ人でも、ネオコンではなく、リアリストたちなら、そんな誇大妄想的なイメージは自国に持ってない。

そんな帝国が、なんで北ベトナムに負けたんだ。

核ミサイルを何千発と持っていても、好きに使えるわけでもない。

ほんとうは、中国もロシアもイランも北朝鮮も、アメリカを牽制している。

「お前の好きになるか、アホか」と身構えている。

ヨーロッパの大国だってそうだ、ほんとうは。

だから、アメリカの意思に抵抗したいのならば、アメリカを牽制できる国を味方にすればいい。

日本は、(アメリカ政府の意志を体現した)国連多国籍軍によるゴジラのいる東京への熱核攻撃を、なんとしてでも、延期させなければならなかった。

ゴジラの血液凍結作戦であるところの「ヤシオリ作戦」の実行には、時間が必要だったから。

「巨災対」のメンバーたちは、東京への核攻撃実行時間が延期される手段を考える。

国連の安全保障理事会のメンバーを説得すればいい。

アメリカは、ゴジラ情報を隠匿していたことをウヤムヤにしたい。だから、サッサとゴジラ問題の幕引きをしたい。

世界を人類を危機にさらすゴジラについて知っていたのに黙っていたのだから、アメリカは国際社会から非難されかねない。

だから、もう、ここは強引にゴジラともども東京を燃やしちゃいたい。

そーいうアメリカを説得することは無理。

同盟国(というか属国)を裏切り捨てるのは、リアルな国際社会によくあること。

そんなの外交の常套だ。アメリカの常套でもある。

いざとなれば、日本のことなんか知らんのよ、アメリカは。

そんなん、普通だって。

とはいえ、中国とロシアも同様にあかんと、尾頭ヒロミは言う。

中国やロシアは、地政学的に日本に近いから、日本が東京壊滅によって打撃を受けるほうが都合がいいから。

隣国の不幸は蜜の味。

まあ、そういうもんよ。

フランスなら、いいんじゃないかと経産省製造産業局長の町田が言う。

フランスは原子力大国だから、歩く原子炉であるゴジラには興味津々だろう。

ゴジラ対策に牧悟郎博士が開発した放射能を無化する効果を持つバクテリアの分子構造に関する情報を差し出せば、フランスは乗ってくるかも。

アメリカは、牧博士が残した分子構造の解析表に関する情報を、他国に漏らさないことを条件に日本に提供したけれど、そんなこと知るかや。

よし、フランスを味方にしよう!

「巨災対」のフランス引き込み案を採用した日本政府=臨時首相代理の里見祐介は、他の臨時閣僚ともども、ひたすらひたすらフランス大使に頭を下げる。

若き首相補佐官の「泉ちゃん」(保守第一党政調副会長)は、フランス政府にコネがあるので、それを使う。

巨災対のメンバーのひとりは、欧州局長に連絡する。

欧州局長ってEUかなんかの人?

ともかく、フランスにとっては利益になることなんで、フランスは日本の味方をすることにした。

アメリカだけに情報独占させてなるものか。

おかげで、多国籍軍によるゴジラのいる東京への核攻撃は延期された。

かつての軍事同盟国のドイツがスーパーコンピューターを貸してくれたということもあり、めでたく「ヤシオリ作戦」は成功した。

核攻撃実行時間の1時間前に、ゴジラは凍結された。

ギリギリセーフだった。

みなさん、ここにフランスとドイツが出てくることに注目してください。

日本は、地政学的には利害関係のないヨーロッパの大国に助っ人を頼んだ。

そうして、アメリカを牽制した。

アメリカ大統領特使カヨコ・アン・パターソンは、アメリカ内部から、東京核攻撃を性急に実行したい主流派を牽制した。おそらく、大物上院議員の父親のコネを駆使して。

アメリカ人政治家がカヨコ特使に言うじゃないですか。

「日本が外交で巧妙に立ち回るなんて。危機になると人は成長するもんだね」って。

いやあ〜〜〜

こういう展開って、なんというか、日本映画において初めてなんじゃないの?

アメリカの属国日本が、外交の駆け引きを試み、「勢力の均衡」バランス・オブ・パワー政策を採ることで、国難を切り抜ける。

いわば、『シン・ゴジラ』は、独立国家としての目が覚めた日本を描いた最初の日本映画なんよ。

すごくない?

この映画において、古い政治家たちである閣僚のほとんどは、ゴジラの熱光線で全滅した。

あれも象徴的だ。

やったら安保、安保とアメリカを頼っていた外務大臣は、いかにも外務省的であったね。

アメリカに洗脳されきっていた閣僚たちは、ゴジラによって一掃された。

おそらく、ゴジラ以後の日本の外交方針は、対米従属から距離を置くだろう……

属国から脱皮しようともがく日本を、ゴジラ映画のドサクサに紛れて、しっかりと描いちゃうって、もう、ほんとに……

『シン・ゴジラ』は、シン・ニッポンも描いていたんだ。

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