上も下もダメ『ジェイソン・ボーン』の孤愁

『ボーン・アイデンティティ』(The Bourne Identity)は、2002年に発表された。

『ボーン・スプレマシー』(The Bourne Supremacy)は、2004年に発表された。

『ボーン・アルティメイタム』(The Bourne Ultimatum)は、2007年に発表された。

以上は「ボーン三部作」と呼ばれ、監督はみなポール・グリーングラス(Paul Greenglass: 1955-)だ。

イギリス生まれのケンブリッジ大学出。

ハリウッド映画でいい作品を作っているのは、外国人監督が多いね〜〜ドイツ人のローランド・エメリッヒ(Roland  Emmerich:1955-)とか、イギリス人のクリストファー・ノーラン(Christopher Nolan:1970-)とか。

「ボーン三部作」のあとに、2012年に『ボーン・レガシー』( The Bourne Legacy) が発表されてる。

けど、これは監督が違う。

主人公のジェイソン・ボーン(Jason  Bourne)は登場しないです。

2002年頃というのは、世界の事情に疎い私のようなアホ平和ボケ無知日本人ですら、以下のことを知るようになった時期だ。

CIA (アメリカ中央情報局)というのは、アメリカ合衆国の国益のためにならない(とCIAが判断した)政治家や外国の要人を暗殺はするわ、弱みを掴んで操作利用するわ、エージェント(スパイ)を世界中に潜伏させるわ、いろいろやってきた機関であるとか。

CIAの活動資金は税金だけでは足りないので、南米で麻薬のコカインを製造させて、売りさばいてきたとか。

まあ、麻薬売って稼ぐのは、満州の関東軍もやってたし。

親米政権を倒すような政権が属国に出てくると、CIAは、エージェントを使ってクーデターを起こしてきたとか。

インドネシアのスカルノ政権潰しとかさあ。スカルノは、デビ夫人のご主人ですね〜〜〜

いうこと聞かない国を経済的に破綻させるということもしてきた。エコノミック・ヒットマンですね〜〜〜

公的機関の文書は国会図書館に保管され、一定の時間が過ぎれば、必ず公開されることが法的に決まっていて、それはCIAも例外ではないということになっていて、それでばれたのが、日本でも岸信介や読売新聞の正力松太郎が、CIAのエージェントであったという事実。

日本人でさえ、そういうことを知るようになってきたということは、アメリカ人なら、先刻ご承知。

CIAの超一級エージェントで暗殺マシーンだったが、CIAのありように不審を抱き一匹狼になるジェイソン・ボーンの物語は、アクション映画の形をとったCIA風刺批判映画だ。

「ボーン三部作」の面白さは、いろいろある。

記憶を失ってしまったボーンが、自分が何者であるのかを含んだ事実を追求していくプロセスとか、アクションの無茶苦茶に高い水準とか。ボーンが移動していく各国の風景とか。

私にとって、何よりも驚いたのが、CIAがターゲットを定めた時の探索手段のハイテックぶりだった。

CIAという政府の諜報機関による監視体制の凄さだ。

固定電話に携帯電話にインターネットに電子メイルに、ファイル転送に、メッセンジャーに、ビデオ会議にSkypeとか、すべての通信が傍受されている。

傍受された何百億という通信の中に、「ジェイソン・ボーン」という言葉がひとつでもあれば、ボーンの居場所は判明する。

何百億でっせ……

1000億に近いデータ数だろうなあ、きっと。

街角や駅構内の監視カメラが設置されていれば、どんな群衆の中からでもターゲットを見つけ出す。

プライバシーなど実はなんもない。

別にCIAから足抜けしなくたって、もう我々のプライバシーなんて、ないのも同然なんだよね。

その種の情報を教えてくれる映画は、それまでにもあった。

でも、この「ボーン三部作」は、決定的に、もう逃れようのないシステムに閉じ込められている人々を描いて秀逸だった。

「へええ〜〜今の世の中は、こうなっているのかああ〜〜!」と、あの映画はいろいろ教えてくれた。

私は、ボーンを演じるマット・デイモン(Matt Damon: 1970-)のファンだ。

なんでか?

理由はないです。ただ好きなだけです。

どっちかというと普通の平凡なインテリ男性の役が似合うイメージの男優が、意外にもものすごいスパイで暗殺者を演じるというので、期待もせずに観に行った映画が、『ボーン・アイデンティティ』だった。

これが最高だった!!

CIAから追われてユーラシア大陸を股にかける主人公の哀愁と、展開の速度と、アクションの無茶苦茶ぶり。

パスポートはいくつもあって、何ヶ国語も話せて、(コカイン販売によって得られた)活動資金は潤沢で。

CIA 資源を駆使してCIAから逃げるジェイソン・ボーン!!

「ボーン三部作」の最後の『ボーン・アルティメイタム』など、これ以上のアクション映画は作られないんじゃないかなあ!とため息つくような傑作だった。

で、あのジェイソン・ボーンが帰ってきた。

9年ぶりに帰ってきた。

30歳そこそこだったマット・デイモンさんも、渋い中年になってきました〜〜〜♫♫

Mobyの歌う主題歌Extreme Ways とともに〜〜〜♫♫

嬉しいなあ〜〜〜♫♫

いそいそと会いに行くに決まってますがな。

あれから9年。

もう中央アジアの奥地で、身体張ってストリート・ファイトで食っていくしかない状態のボーンです。

この9年間の間に変わったのは、ほんとうにアメリカ政府が「プリズム」(Prism)という盗聴監視システムを展開したということだ。2007年にね。

このプリズムを暴露したのが、エドワード・スノーデン(Edward Snowden:1983-)だった。

彼は、CIAとNSA(国家安全保障局)で働き、通信情報傍受活動に従事していた。

でもって、「いくらなんでも、こんなことやってはいかんだろーー!!」ということで、ジャーナリストに接触し、内部告発した。2013年のことだ。

世界中の大新聞が報道して、各国の要人の電話傍受ばかりでなく、自国の市民生活までコソコソと聴きまくるアメリカ政府による盗聴は人々が知ることとなった。

といっても、だからといって、アメリカ政府はプリズム・システムを破壊などせんよ。

安全保障上は必要なことなんだし。

サイバー戦争の時代だし。

ハッカーは跋扈してるし。

スパイはいっぱいだし。

ところで、スノーデンさんは今どこに?

ロシアに匿われているのかなあ?

それはさておき、21世紀になってから、インターネットによって、IT技術によって、ますますもって世界は緊密に結びつくようになった。

同時に、それらの技術によって、盗聴監視システムによって市民の自由とプライバシーが消えていくことにもなった。

9年ぶりの、(おそらくボーン・シリーズ最終作であろう)新作『ジェイソン・ボーン』の裏テーマは、これなんよ。

民間のソーシャルネットワークからデータを取得することによる、より完璧な監視体制を構築しようとするCIA(と政府とその背後にいる超特権層)のありようがテーマなんよ。

アップルやマイクロソフトや、グーグルやヤフーやフェイスブックは、関与を否定しているが、おそらくこれらの大会社は政府の監視体制に協力している。

映画の中にも、スタンフォード大学出のインド系らしき青年IT実業家で、Deep Dream という世界最大のSNS のCEOが登場する。

このDeep Dream にCIA長官は目をつける。

最初は抵抗していたCEOも暗殺の危機にあい、CIAにDeep Dream のデータ提供を同意する。

これで、CIAは、Deep Dreamを使って、どんな情報操作もできる。

もちろん、ユーザーのデータはダダ漏れだ。

「アラブの春」は、Facebookによって実現されたとか言われたけど、書き込んでたのは、アメリカのエージェントたちだったように。

旧弊な、昔ながらの共同謀議派のCIA 長官のやり方に疑問を感じた若い幹部候補生の女性CIA局員は、「新しいCIAを作ろう」とボーンに接近する。

彼女は、Deep DreamのCEOとスタンフォードで同窓だ。

おお! CIAも変わるのか?!真の国益を考える組織に変わるのか?

若い人々による新生アメリカが!?

自由なアメリカが再生するのか!?

と思いきや、狙撃されてビビって、コロッとユーザーを裏切ることに同意するDeep Dream のCEOと同じく、彼女も旧弊なCIA長官と同じだった……

ということで、ジェイソン・ボーンにとっては、上の世代は権力欲丸出しでアホ、下の世代も軽薄でカッコつけるだけで根性なしのアホ。

今回のジェイソン・ボーンには、会社の重役たちもアホ、若い社員もアホで、上と下に挟まれる良識ある中年の孤愁が漂っておりました!

確かにねえ……組織というのは、上も下もねえ……

かくして、ジョージ・オーウェル(George Orwell)の『1984』で、すべての国民を監視しているBig Brotherは、現代ではSNSでもある時代に、我々は生きているわけであります〜〜

自由に交流しているつもりでも、しっかり見張られている私たち。

Deep Dreamとはうまく言ったもんですねえ。

現実を生きているつもりで、私たちは、支配層がメディアや学校などを通じて私たちにあてがう情報の中に生き、それが現実で事実だと疑わない。

まさに深い夢を生きている。

酔生夢死。

私は、1999年発表の映画『マトリックス』(The Matrix)のネオのように覚醒することができるのだろうか。

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