本日は2017年4月27日木曜日である。
4月29日から5月7日までの黄金週間を前に、日本中が、しばしちょっとだけ静かにしている感じである。
本日も渡邊明先生ご担当の「生産管理特論1」の講義内容を紹介する。
第3回講義は、2つのパートに分けられていた。
第1回目講義と第2回目講義に関する院生さんたちの質問コメントに対する答えるというパートと、講義そのものと。
本日は、講義内容を紹介する前に、院生さんたちの質問に対する渡邊先生のお答えを紹介する。
こういう質問が出ていた。
「商品には物語がなければならないとのことだが、その物語という意味がわからない」
ごもっとも。
正直ですね。
この質問は、第2回目講義の「物語コーポレーション」社CEO加治幸夫氏のご講演内容とも関連する。
藤森の解釈においては、商品の物語性とは、他社の商品とはくっきり違う点、つまり「差別化」を主張できること、である。
その商品の独特のユニークさである。
商品の人生ならぬ、商品の生まれた背景、理由、意義、方向性の主張である。
たとえば、「無印良品」ならぬ「志良品」というアパレル会社があるとする。
そこの商品のコットン製品の材料のコットンは、インドで栽培され商品化されているが、その質は非常に評価されている。しかも、そこの綿織物工場では従業員を搾取しない。加えて、工場の売り上げの15パーセントは、そこのコミュニティの教育福祉に出資されていて、そこの地域では、「綿織物工場立小学校」がいくつもあり、そこで学んだ子どもたちが長じて進学し就職し、インドの地方の貧困解消に貢献している、とする。
すると、「志商品」は、営利を追求もするが社会的責任も果たしているということになる。
こうした物語を主張すべく、ここの製品のロゴは小学校と子どもである。
でもって、そういう背景があるので、ここの商品は非常に安価というわけではない。1年着たら終わりでいい価格設定ではない。ファストファッションとしては使えない。長く愛用して欲しい。
そんなことを訴えるコマーシャルを出す。
その方針に賛同したデザイナーが格安でデザインする製品もある。
これが、他の商品と差別化できる「物語」 だ。
心ある消費者は、同じ買うなら、そこの商品にしようか、となる。
でもって、「志良品」社は、さらに新しい物語を創造するべく、自社商品のリサイクルとして、自社製品3年着用したら買い取るサーヴィスも始める。
云々。
いくらエンジニアが考えて開発した商品でも、売れなければゴミである。
ゴミにしないために、エンジニアは自分が開発する商品の物語性を意識しなければならない。
と、渡邊先生は強調なさった。
「売れない商品はゴミである」は、渡邊先生の講義中の口癖である。
渡邊先生は、私のような妄想ではなく、ダイキン工業が大いに売った「うるるとさらら」というエアコンの実際の事例をあげた。
「うるるとさらら」は2009年発売以来ずっと売れているロングセラー家電商品だ。
ダイキン工業は、旧名「大阪金属」だ。だから大金。タイキンじゃないよ、ダイキン。
しかし、ダイキン工業は150ミリ榴弾砲の製造で知る人ぞ知る大企業であり、工業用エアコンでは有名であったが、家庭用エアコンでは冴えんかった。
ダイキン工業は、なんとか家庭用エアコンでもシェアを広げたかった。
家庭用エアコンで気になるのは、冷房だと寒過ぎることが起きがちということである。暖房だと乾燥することである。
で、ダイキン工業のエンジニアは考えた。
湿度を調節できる機能がついてるエアコンならば、どうだろうか?(製品計画 production plan)
潤いがあると寒く感じない。潤いがあると暖かくても乾燥しない。
体感温度と湿度は密接な関係がある。
調湿できるといいね。
加湿機をエアコンに入れ込めないか?
加湿機は通常はでっかいが、どうやって小さくする?
マーケット・ターゲットは、幼い子どものいる若い夫婦。
赤ちゃんに優しいエアコン!
当然に、価格設定としては、通常のエアコンより高くなる(価格設定)。
でも、赤ちゃんに優しいとなると、 ちょっと高くても親は頑張る!
赤ちゃんに優しいということは、どの世代にも優しいのであるからね。
優しいエアコンという物語ができた!
商品名を「うるるとさらら」とひらがなにして、さらに優しさを強調する(promotion)。
うるるとさらら。
いかにも、優しく冬は潤おい、夏はサラッとした感じ。
ネーミングは大事だ。
「潤い」もいいけど、インパクトはない。
うるるとさらら。
よく考えたよな。
価格は高いけど、顧客の心理的財布を開かせる物語性は確保!
うるるとさらら機能がない安価なエアコンも製造し、いつかは「うるるとさららを買おうかな」と思う潜在的顧客も開拓しよう。
さて、次にどうやって売るかだ(place plan, channel plan)だ。物流ね。
「うるるとさらら」は、大型家電製品量販店で売ってもらうことにする。
大型家電量販店は在庫を嫌う。
注文後3日後に商品が届けば家電量販店は嬉しい。それから顧客に届けるのだが、注文後の4日後に届けば顧客も嬉しい。
「うるるとさらら」は、早く作って早く送り出す。
という「物語」=差別化もした。
ということで、ダイキン工業は家庭用エアコンで第1位を占めることができた!
商品というものは、その商品について語ることができる=他社製品とは違う点=差異化できるものを持ち(plan)、マーケット・ターゲットを明確にして価格設定し(price)、それを宣伝周知できるようにして(promotion)、どう販売ルートに乗せるか(place plan)を考えねばいけない。
それがmanagementである。
以上が、渡邊先生のご説明であった。
何しろ、院生さんたちは企業で製品開発の担当技術者になるのだ。
良いものを作った、だけでは済まないということを渡邊先生は繰り返し強調なさった。
「イノヴェイションのジレンマ」というものがあるそーだ。
すっごい技術革新ができても、それだけでは商品にならない。売れない。
ビジネスモデルの構築というのは、理系の工学部の院生さんも考えねばならない。
えてして、売れるものは、「最先端より一歩だけ遅れているもの」だそーだ。
院生さんたちは、この言葉に反応したようである。
なるほど。
絶世の美女より、新垣結衣ちゃんね。
こーいうのを「戦略的部分最適」と言うらしい。
???
渡邊先生が今現在に注目しておられるビジネスモデルは、「センサーをお腹につけること」だそーだ。
センサーをお腹につけると10分後に大便が出ると鳴る装置に注文しておられるそーだ。
こういう装置ができると介護現場で役に立つ。
あ!鳴ったわ!行かなくちゃ!新しいオムツを用意しておこう!
ってことだろうか。
将来は、センサーが鳴ると、介護ロボットがサッサと被介護者をトイレに運び便座に装着させるってことになるのだろうか。
私としては、お腹に装着すると、腸の蠕動運動が促進されて便秘が治るという装置ができると、大変にありがたいのだが。
便秘対策はさておき、科学技術を商品化することに伴う差別化、物語化についての渡邊先生のお話は、個人の人生にも応用できるね。
自分という商品を、どう差別化していくか。
自分だけの物語を作る。
それから、どう自分を宣伝広告して行くか。
どんな人たちに自分を売り込むか。売り込めるか。
万人に好かれるわけにはいかない。
どう世間に社会に自分を知らしめていくか。
最先端の一歩手前が売れる。
アヴァンギャルドの一歩手前。
あまり世の中の先に行っても受け入れられない。
しかし、陳腐に花が咲いていても、陳腐に変わりはない。
生きて行くってことは、ありのままの自分を世間に突き出すことじゃない。
自分をどんな商品にするか、パッケージはどうするかは、私も私なりに若い頃ちょっとは考えたよ。
私という商品はあんまり売れなかったけど、倒産は免れたから、よしとする。
いろいろ考えさせられた「院生の質問に応えて」のパートであった。