[172] SF映画『メッセージ』は既成概念を静かに破壊する

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本日は2017年5月30日火曜日である。

26日土曜日のお昼過ぎに尾道&福山から名古屋に帰ってきた。

土曜日の夜は、くたびれてスッキリしなかった。

だから、レイトショーで映画を観に行った。

『メッセージ』というSF映画だ。原題はArrivalだ。

非常に非常に非常に良かった!!

地味ではあるが、これも傑作だ!

静かにではあるが、脳が無茶苦茶に刺激された。

認識が広がる高揚を感じた。

アメリカでアカデミー賞にノミネートされたが、音響賞だけもらったそーだ。

いやあ、この映画がアカデミー賞を受賞できるほど、人類はまだそこまで賢くないわ。

よく、こんな映画を作れたなあ!と感心した。

原作も読んでみた。

「あなたの人生の物語」Story of Your Lifeだ。

中国系アメリカ人のテッド・チャン(Ted Chiang: 1967-) が書いた。

彼の短編集『あなたの人生の物語』(Stories of Your Life and Others)に含まれた同じタイトルの短編小説が原作である。

ほかの短編も面白いよ。

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原作を読んで、またビックリ!

この短い小説から、あれだけの映画作品をよく作ったものだ!!

凄い。凄い。すさまじい想像力だ。

映画と原作は、かなり違います。

コンセプトは同じですが。

映画は、一応は娯楽作品にしないと稼げないしね。

わかりやすくしないといけないしね。

あの原作を、あれだけ理解しやすく、しかも視覚的に表現した映画『メッセージ』は、哲学的思考とエンターテインメントの融合の成功例だ。

この映画は、フラッシュバックという技法をフラッシュフォーワードという技法にもした……

むふふふ……

ここで勘のいい人は、わかっちゃうな。

あらすじは書きません。

まあ、簡単に言えば……

未知の物体が地球上に出現して、その物体には生物が乗っていて、その生物とコミュニケーションをとるために人類が試行錯誤して、やっと意思の疎通ができるようになって、彼ら(か、彼女か知らんが)が地球に来た目的を知るという話だ。

今までのSF映画ってさ、最初から宇宙人が地球語を話したでしょ。

もしくは、テレパシーで語りかけてくるとかさ。

そういう設定はデタラメだよね。

地球人中心主義よ。

御都合主義ね。

あくまでも、地球人の認識の枠内で物語が展開する。

映画『メッセージ』においては、その地球外生物の言語体系は、人類のそれとは全く違う。

たとえば、人類の言語には、言葉の配列に規則性がある。

これが文法だ。

時制がある言語もあれば、時制のない中国語のような言語もある。

そんな中国語でも、過去を示す言葉や未来を示す言葉がある。

何かを記述するときに、人類のどの言語も時間の進行どおりに説明する。

時系列に記述する。

因果関係を示して記述する。

リニアに説明する。

ところが、映画『メッセージ』に登場する地球外生物「ペトラポッド」(7つの脚という意味)の表意言語には、ほんとうに時制がない。

ほんとうに時制がないというより、時間意識がない。

過去も未来も現在もない。

同時に進行しているのだ、過去も現在も未来も。

発声言語もあるが、主として「ペトラポッド」の言語は表意言語である。

形の違いで意味の違いを示す。

漢字みたいなもんね。

ただし、文字というより、書道の墨の染みみたいな形の組み合わせで表現する。

この黒い染みの形の差異で、意味が変わる。

原作において、上のような「ペトラポッド語」が表現されているわけではない。

このような図象を考案したのは、映画制作陣である。

すごいわ〜〜〜

中国のカリグラフィ(書道)からヒントを得たそーだ。

ともかく、主人公のほとんどの人類の言語を理解できる言語学者の女性は、ペトラポッド語を解明し、ペトラポッド人たちと意志の伝達に成功する。

で、彼ら(雌雄の概念も地球にしかないのかも)が地球に来た目的を知る。

そんなことはわからない諸外国の中には、ペトラポッドに軍事攻撃をしかけようとする大国もあった……

ヒロインは、どうやって、その大国の司令官にペトラポッド総攻撃を中止させるのか?

ここらあたりが、映画のクライマックスである。

ここは書かないぞ〜〜♬♬

映画を観に行ってちょんまげ。

その方法は、ヒロインがペトラポッド語を理解し、その認識法を受容できたからこそ、実行できた。

ヒロインは、人類の既成の認識法とは別の認識力を得た。

それは、物事を全体に丸ごとに見ること。

悲劇も喜劇も同じだ。

そのまま受容すること。

未来に起きることを知っていながら、現在を生きること。

過去は完結した安定的なものではない。

現在によって解釈が変わるもの。

だから未来も変わる。

過去も未来も現在によって変わる。

ペトラポッドたちは、自分たちの未来を知っていた。

自分たちが滅びることを知っていた。

しかし、地球の人類の手を借りれば、自分たちが生き延びる可能性もあるとも知っていた。

だから、その3000年先のために、地球人に自分たちの言語を教えに地球に来た。

3000年後に、地球人とペトラポッド人が意志の疎通ができるように。

それが完了したとき、ペトラポッド人たちの乗り物は消える。

次元の彼方に消える。

後日に、ヒロインは、ペトラポッド語の解明により、「宇宙共通の言語」Universal Languageを作る偉業を成し遂げる。

ネタバレしちゃって、すみません。

こういう展開は映画版だけです。

原作は、もっと静かに展開する。

この作者は、日系英国人作家のカズオ・イシグロに影響を受けているかもしれないなあ……

それはさておき……

この映画の、原作の要点は、そーいうことではない。

地球人と地球外生物の異文化コミュニケーションなんかがテーマじゃない。

認識法にはいろいろあるってことだから。

時間は、フィクションってことだから。

時間は、地球人に支配的な認識法が生み出した錯覚だから。

すべては、今ここにあるんだから。

よく失敗した人生などないと言われる。

すべてに意味と恩寵があるという説がある。

反対に、どんな人生も死に向かうのだから負け戦だという説もある。

どっちでもいいんじゃないの。

どっちみち、私たちが持てるのは、今というこの瞬間しかないのだから。

すぐに消えていく この今しか。

今が幸せならば、過去が肯定され、未来が祝福される。

予言された時点で、予言内容は実現しないという説がある。

人々の意識が 予言内容に干渉して、変わってしまうそーだ。

そうか。

今のあなたの意識が世界を変えるわけだ。

世界の未来を変え、歴史を書き換えるわけだ。

2件のコメント

  1. 長い間読んできたロバート・A・ハインラインのある小説の読解に大変役立ちました。ありがとうございました

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