[175] 三重大学工学部大学院「生産管理論特論1」第8回講義: 未来の組織

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本日は、2017年6月5日月曜日である。

本日は、渡邊明先生ご担当の三重大学工学部大学院科目「生産管理論特論1」の5月30日開講第8回講義の一部を紹介する。

実は、第7回講義の覚え書き作成をサボった。

尾道での講演会やら何やらでくたびれてしまって、サボった。

渡邊明先生は、「勉強は楽しむものです。無理することないです」と、おっしゃってくださった。

そのお言葉に超厚かましくつけこませていただいた。

すみません。

無料で聴講させていただいているのに、私はいい加減なヘタレである。

第8回目ご講義は、第7回目ご講義の復習をかねての大学院生さんたちのコメントペーパーを使用しての質疑応答と、「組織論」のふたつの部分に分かれていた。

本日は、この「組織論」について紹介する。

私のような人文系の脳たりんでも興味が大いに持てるテーマであった!

たとえば、「損益分岐点」なんてさ、グラフで示されても、まるっきりわかんねーよ、もう。

私は、企業に入社できていたら、真っ先に落ちこぼれのリストラ対象とされていたに違いない。

第8回ご講義では、2002年当時に放映されたNHKの番組の映像の一部を利用して、組織のあり方の具体例が提示された。

(ご講義の覚え書き始め)

(1) 2002年にアメリカのフォード自動車の経営陣は、「新しい組織のあり方」を従業員に提唱した。かつては全米1のシェアを誇っていたフォード自動車は21世紀に入った頃に非常に売り上げが落ち込んでしまい、経営陣は危機感を募らせていた。

(2) フォード自動車の経営陣は、自社の組織のありようが創立以来ピラミッド型であることに問題があるのではないかと考えた。

(3)ピラミッド型意思伝達では、顧客の要望にすみやかに応えることができない。よって、顧客の要望や意見に直接にさらされる立場の従業員が発信して、経営陣の方針に影響を与える逆ピラミッド型組織が必要なのではないかと、フォード自動車の経営陣は考えた。

(4) そもそも、ヘンリー・フォードが採用した組織は、19世紀のプロイセンの参謀総長モルトケの組織法を真似たものだった。

モルトケとは、ヘルムート・カール・ベルンハルト・グラーフ・フォン・モルトケ(Helmuth Karl Bernhard Graf von Moltke: 1800-1891)のことである。グラーフというのは「伯爵」の意味らしい。

甥の第一次世界大戦のときのドイツ参謀総長の小モルトケじゃない。

近代ドイツ陸軍の父と呼ばれたモルトケ元帥のことだ。

(5) モルトケが1858年に参謀総長になった時に参謀本部なんてなくてもいいんじゃないのーという空気もあった。が、プロイセン王国とオーストリア王国の間の戦争である普墺戦争が1866年に起きて、モルトケの名声が確立され、参謀本部が注目されるようになった。

(6) モルトケは、開戦前に兵員輸送のための鉄道や、命令伝達用の電信網を準備させた。参謀本部と前線部隊間の意思疎通を万全にして統一的な部隊運用をして、「7週間」でオーストリアを破った。

(7) その後の普仏戦争においても、この「ドイツ参謀本部」方式でフランスに圧勝した。

(8) で、ヨーロッパ中が一斉に参謀本部設立し、優秀な参謀将校の育成と、参謀本部の意志と作戦を最前線の部隊兵士に伝えるピラミッド型組織構築に勤しんだ。明治維新後の日本政府も同じだった。

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(9)  フォード自動車の創始者であるヘンリー・フォードはモルトケに心酔し、自分の会社組織を徹底した上意下達式軍隊を模したものにした。現場の作業員は「考えるな!上司からの指令で動け」と言われた。

(10) それは少品種大量生産時代の20世紀には成功した。しかし、ドイツ参謀本部式組織では、次第に多様な顧客の多様なニーズに応えられなくなった。その結果が、21世紀に入ってからのフォード自動車の低迷であった。

(11) とはいえ、フォード自動車の逆ピラミッド型組織運営は、失敗に終わった。現場の労働者の意見や指摘を吸い上げることで、改良はできた。しかし、企業経営は対処療法的な改良だけしていればいいものではない。長期的なプランや研究開発の方向性は、現場の労働者では決定できないからだ。

(12) トヨタ自動車は、ピラミッド型組織を維持しつつ、現場の作業員の意見や改善策をすくい上げることで、「トヨタ生産方式」なるものを形成した。

(13) フォード自動車の組織運営改革は成果は残せなかったにしろ、未来の企業における組織はどう変わっていくか、という問題を提起した。確かに、モルトケ流ピラミッド型組織には限界がある。

(14) アメリカに、「指揮者のいないオーケストラ」が存在する。ニューヨークを拠点に演奏活動をしている「オルフェウス室内管弦楽団」である。通常のオーケストラは、指揮者とコンサートマスター(通常は第1ヴァイオリンから選ばれる)が、リーダーである。楽団員は、指揮者とコンサートマスターを見ながら演奏する。

しかし、「オルフェウス室内管弦楽団」は、リーダーシップを分け合う。指揮者いない。コンサートマスターに、他の楽団員がダメ出しする。

(15) この楽団は以下の8つの原則で演奏する。これらの原則を「オルフェウス・プロセス」と呼ぶ。

① その仕事をしている人に権限をもたせる。② 自己責任を持たせる。③ 役割を明確にする。④ リーダーシップ固定させない。⑤ 平等なチームワークを育てる。⑥ 話の聞き方を学び、話し方を学ぶ。⑦ コンセンサスを形成する。⑧ 職務にひたむきに献身する。

(16) リーダーが全くいないのではなく、作品ごとにリーダー役を選び、そのリーダー役が作品解釈の素案を作り、他の楽団員が意見を言って、演奏が形成される。

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(17) 日本でも、このオルフェウス室内管弦楽団(20名くらい)方式を真似て運営しているオーケストラもある。「東京アカデミーオーケストラ」だ。

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(18)  アメリカのマサチューセッツ工科大学教授のトーマス・W・マローン(Thomas W. Malone: 1952-)は、未来の組織のあり方について、ITによる情報伝達コスト低下 により、組織の意思決定構造が変わり、組織は集中化から分散化に向かうと予言した。

名著『フューチャー・オブ・ワーク』(The Future of Work: How the New Order of Business Will Shape Your Organization, Your Management Style, and Your Life, 2004) において、そう予言した。

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(19) 簡単に言うと、未来の組織は、上司からの指示で動く人間ではなく、主体性を持つ個人のネットワークのプラットホームになる(とマローン博士は予言する)。

大きな企業の中でも、社員がプロジェクトを立案し、それに共鳴共感協働したい社員が集結してプロジェクトを遂行する(とマローン博士は予言する)。

したがって、プロジェクトに参加させてもらえる人間、上意下達ではなく自分で仕事を見つけることができる人間、対等なプロジェクト遂行仲間と、コミュニケーションがとれる人間でなければいけない。

この変化は、18世紀の近代市民革命に匹敵する大きな人間革命である。組織の民主化というものが21世紀に実現するであろう(とマローン博士は予言する)。

(20) アメリカの軍隊も、末端の個人の兵士の裁量に任せる方式を採用し始めている。モルトケ時代のような参謀本部の指令を待っていては、刻々と変化する戦場の状況に対処できない。

(21) 未来の組織に必要な人間とは、自己を持ち、かつ他者と意思疎通ができて、協力して仕事を達成することができる人間である。

理系のエンジニアであることは、ただただ研究開発に従事していればいいのではない。未来型組織においては、このようなプロジェクト形成維持能力、コミュニケーション能力が必要となる。

はっきり言って、プロジェクトに呼んでもらえないエンジニアになっちゃいけない。

だから、工学部でもマネージメントを、組織論を学ばねばいけない。

( ご講義覚え書き 終わり)

なるほどなあ……

マローン博士の説は、いかにもアメリカ人好みだ。

主体性ある個人のネットワークで繋がり形成されている組織。

この人は、ひょっとしたらアイン・ランド愛読者かもね。

このマローン教授が英国のEconomistって雑誌に呼ばれて、した対談のYouTube動画を見つけた。で、視聴してみた。

この対談で、マローン博士は、将来の企業というのは、「フリーランス」的に働くことと「ヴォランティア」的に働くことが、重要になってくると言ってる。

金のために働くのではなく、給与を払ってもらうために働くのではなく、仕事を愛するために働く。

うーん……

そんなことよりもさあ、アメリカの企業は労働者に、従業員に、もっと賃金を出すことを考えた方がいいのではないか。

アメリカの企業は1980年代までは、net profit(純利益)の50%を株主に配当し、あとは設備投資と労働者賃金にあてていた。

ところが、1990年代には、net profitの90%が株主に。

そして21世紀にはいると、95%が株主に。

これでは、アメリカの企業がイノヴェイションを生めないはずだ。

研究開発( R & D) に金を出さないんじゃあさあ。

その研究開発をする社員にも報いないのではさあ。

マローン博士の未来の組織のヴィジョンは美しくもダイナミックである。

しかし、私は、ついつい思ってしまった。

「この大学の先生は頭がいいのだから、こんなこと本気で信じているとは思えない。この未来の組織は、新種の労働者搾取に違いない」って。

「資本主義だから、株主への配当が大きいのは自然だけれども、イノヴェイションもおこせない現在のアメリカの企業風土について警鐘を鳴らすほうが、先だろう……マローン教授さん 、御託を並べている場合じゃないんじゃないの……」って。

政治的民主主義だって、お題目でしかないんだぞ。

企業の民主化?企業内民主化?

そんなん、信じられんわ、私は。

私って、マローン的21世紀の組織を想像できない旧弊な人間なんだわん。

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