[200] 反トランプ・ミュージカル『ハミルトン』を勝手に弁護する

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本日は2017年8月3日木曜日だ。

私は、今、マスゴミの報道は、偏向はあたりまえだから、やはり自分の目で見ることが大事だと、あらためて思っている。

そういえば、去年のトランプさんとヒラリーさんの公開討論会を中継で視聴して、「頭おかしいのは…ヒラリーさんとメディアだ……」と思ったことを思い出す。

それまでは、どちらともピンとこなかったのだが。

今日の記事は長いですが、読んでやってください。

最近、あるお若い方から、以下のミュージカルについて教えていただいた。

以下は、このミュージカルの全曲の歌詞つきサウンドトラック。

https://m.youtube.com/watch?v=9CDZBGoiCrI

2015年にオフ・ブロードウエイで上演され、すぐにブロードウエイに移り、それ以後ミュージカルで大大ヒットして、2016年のトニー賞を受賞したミュージカル「ハミルトン」(Hamilton)についてだ。

ハミルトンというのは、アメリカ合衆国建国の父の一人で、初代財務長官までしたアレグザンダー・ハミルトン(Alexander Hamilton: 1755-1804)のことだ。

10ドル札に肖像画が印刷されているから、ほんとに建国の父のひとりだ。

ところが、どういうわけか、このハミルトンは、建国の父といっても、フランスで女装して諜報活動してた、科学者でもあったベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin:1705-1790)ほど、アメリカでも日本でも知られていない。

フランクリンは100ドル札です〜〜

初代大統領になった桜の木がどうたらのジョージ・ワシントン(George Wahington: 1732-1799)は、そりゃ超有名だけど。1ドル札になってます。

第3代大統領になったトマス・ジェファソン(Thomas Jefferson: 1743-1826)にも、知名度では足元に及ばない。

だけれども、アレグザンダー・ハミルトンは、ほんとのところは、上記の3人が束になってもかなわなかった天才だった。

ほんとに、すごい天才は偉人伝で書かれて小学生に読まれるなんて、凡庸な人生は送らない。

日本の幕末明治だって、坂本龍馬とか勝海舟とか西郷隆盛とかよりも、ほんとうにすごかったのは、徳川幕府の最高のテクノクラート小栗忠順(おぐり・ただまさ:1827-1868)だ(と思う)。

ほんとうの天才の業績を表に出して知られると都合の悪い人々に、歴史から抹殺される人々というのは存在するのだよ。

ほんとだよん。

もしくは、これは落合莞爾(おちあい・かんじ:1941-)氏に言わせれば、より大きな仕事をするための「偽装死」なんですかねえ……

それはともかく、アレグザンダー・ハミルトンは、アメリカの建国の父の中でも異色中の異色だ。

他の建国の父と呼ばれる人々のほとんどは、17世紀あたりから英国からアメリカ大陸に植民して、黒人奴隷こき使って大農園を所有するようになった大農場主の子孫だ。その地域では名士となった人々の子孫だ。

ところが、ハミルトンはカリブ海の西インド諸島のある島で生まれた。

18世紀は、すでに英国では ブルジョワジーの農場の囲い込み運動で農地を失い、都市に流入した無職の人間が、職を求めて世界中に移民していった。

ハミルトンは、それらのカリブの島で労働者として働いていたスコットランド系移民と現地のフランス系移民の末裔の女性との間に生まれた。

英語で言うbastard私生児だった。

両親は正式な結婚ではなく、父親はどこかに行ってしまって、母子の生活など面倒をみることもなかった。

兄がいたが、兄と父親が同じかどうかはわかっていない。

欧米文化圏での「私生児」という言葉の意味は大きい。

欧州の貴族の家系で、私生児が後継者になることは絶対にない。

アジアとは違う。アジアでは父親が高貴な人間であれば、その子どもは、母親の出自がどうであれ、貴族の後継者になれる。

私は、ロンドンで、現地の男女の口論を目撃したことがある。女性が男性に向かって、ほんとうにBastard!!と怒鳴っていた。

最高最悪の罵り言葉らしい、英語圏では。

幼いハミルトンは母親を病気で失くした。

兄は、津波にあって死んだ。

そのときの体験談をハミルトンは書いて、新聞が取り上げて、注目された。

どこで読み書きを独学したのかわからないが、幼い頃からハミルトンは何でも片端から読んだ。

数理にも強く、14歳で雇用主の貿易商の仕事を任されて、会計もきちんと運営した。

天涯孤独な私生児の孤児だが、その才能を惜しみ、周りの大人たちがカネを出して勉強してきなさいと、大学に入りなさいと、ニューヨークまで送り出してくれた。

そのとき、18歳だった。

その立場から、アメリカ独立戦争時には、ワシントンの副官となり、軍事の才能を示したのだから、いかほどに有能であり魅力があったことか。

弁護士としても活躍し、アメリカ憲法の草稿執筆に参加した。

アメリカの初代財務長官(Secretary of Treasury)に就任し、破綻しかかっていた合衆国の財政を立て直した。連邦銀行を創設し、米国債を発行し財政難を乗り切った。

アメリカの郵便制度を作ったのもハミルトンだ。

民兵(市民兵)頼りだったアメリカが正規の常備軍を充実させるように働きかけた。

沿岸警備隊も創設した。ウオール街を拠点にアメリカの金融制度も整えた。

フランス革命が起きた時にアメリカは援軍を要請されたが、リアリズムの観点から、援軍を送らないことをワシントンに進言した。

正しい!

ジェファソンは、フランスはアメリカとイギリスの独立戦争のときに援軍を寄越してくれたのにと言い張ったが、それとこれとは違うし、財政的にそんな余裕はないと、冷徹にハミルトンはジェファソンの意見をはねつけた。

正しい!

実は、アメリカ合衆国の首都がニューヨークではなく、今のワシントンDCになったのも、ニューヨーク拠点のハミルトンと、南部ジェファソン一派との「手打ち」らしい。

ちょっとでも南部に近いところに首都を置きたがったから、ジェファソンやマディソンは。

まあ、ハミルトンも、大きなことのための妥協もしなきゃいけなかったろう。

多忙な政務の日々の中でも、ハミルトンはひたすら書き続け、残した論文の数はすごい。

夢など見ずに、綺麗事言わずに、アメリカ合衆国という国家の整備に勤しんだ。

そこんところが、また煙たがられた。

文武両道で、冷静な経済金融のセンスに秀で、文筆に優れていた。

ハミルトンが、こんな大天才であることは、歴史や経済政治の知識がある人以外には知られていなかった。

アメリカ人でも知らない人が多かった。

アレグザンダー・ハミルトンの偉大さが知られるようになったのは、伝記作家のロン・チャーナウ(Ron Chernow: 1949-)が、ハミルトンの伝記を2004年に出版してからだ。

チャーナウさんは、イエール大学の英文科(つまり、アメリカの国文科)出身で、ユダヤ系アメリカ人。

ロックフェラー家とかモルガン家とかウオーバーグ家とか、超有名金融資本家、財閥の伝記作家で知られてきた。ちょっと、この人も胡散臭いけど……

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チャーナウさんのAlexander Hamiltonは、私も前に買ったが、読むはずないよ。

むちゃくちゃ分厚い。

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翻訳だと3巻本だ。あ、今はすでに絶版です。翻訳ですら私は読んでない。

アメリカ研究者なのに、ダメな奴。

この本を読んだ、プエルトリコ系のリン・エマニュエル・ミランダ(Lyn-Emanuel Miranda: 1980-)という才能ある舞台人で音楽家が、ハミルトンの生涯をミュージカルにしようと思った。

6年間かけて、作詞作曲全曲書き上げ、主役のハミルトンを演じたのが、ミュージカル「ハミルトン」だ。

で、移民からアメリカ合衆国の礎を築いたハミルトンにちなんで、キャストを、主流白人系ではなく、みな移民系にした。

(英国系アメリカ人でも移民だけどね、最初はさあ。欧州から一旗揚げに来たか、逃げて来た人々だけどね)

だから、ワシントンを演じたのも黒人。

ジェファソンを演じたのも黒人。

アーロン・バー(Aaron Burr: 1756-1836)役の人も黒人。

アーロン・バーつーのは、政治家で、大統領選にも出馬して、ジェファソン大統領の副大統領まで勤めた人物だけれども、ハミルトンと決闘して、ハミルトンが亡くなったので、失脚してしまった人物。

今では、ハミルトンを殺した人物としてしか歴史に残ってない。かわいそー

ハミルトンの妻を演じた人はヒスパニック系女優さん。メキシコ系だと思うよ。

純粋白人系キャストは、英国のジョージ3世を演じた人だけだ。

このことが、2016年の大統領選挙戦のときに、「利用」されちゃった。

反トランプ政治運動のミュージカルとして注目を浴びてしまった。

不法移民流入を止めようとするトランプ派に抵抗して、「アメリカは移民でできた国じゃないか!!アメリカの建国の歴史を忘れるな!!」というキャンペーンの中心となってしまったのだ、ミュージカル「ハミルトン」は。

なんか、問題がゴッチャになってるよね……

で、数日前に私は、このミュージカルの上演を全部2時間45分こっそり撮影した動画がYouTubeにあげられていたものを視聴する機会を、こっそりと、いただいた。

YouTubeにアップされていた「ハミルトン」全編は、もちろん当局からすぐに削除されてしまった。

しかし、削除される前に、その動画をダウンロードしていた方がいた!

で、その方のご厚意で、私は、大問題作と言われる、反トランプ政権・ミュージカルと言われる「ハミルトン」を視聴することができた!!

ありがとうございます!!

これ、ここだけの話ですからね。

秘密にしておいてくださいね。

うわあーブロードウェイに行かずに視聴させてもらった!!

下の動画は、ミュージカルの一部です。これは合法ビデオです。

すでに、今年の12月半ばまでチケット売り切れの作品でっせ。

一時期は、プレミアがついて、チケットに1万ドルの価格がついたミュージカルでっせ。

落ち着いてからも800ドルでチケットが取引されているミュージカルでっせ。

作者のミランダ氏は、10ドルの料金で、ニューヨークの公立高校の生徒たちに、「ハミルトン」を観せているが、同時に、今でも、最前列の席は10ドルで提供している。

クジで選ばれた観客は、10ドルで、このミュージカルを観ることができる!!

で……その海賊版「ハミルトン」を視聴させていただいた感想は……

素晴らしい!!

素晴らしいミュージカルだ!!

よく、あんな歴史劇、政治劇を、ラップのミュージカルにできたものだ!!

全く軽薄じゃないよ。

徒手空拳の孤児の私生児がアメリカの政界の階段を昇って行く姿や、政界の陰謀や、経済を含む国政のリアルな運営と、政治的スローガンとの齟齬など、よく描かれている。

ぶっちゃけて言えば、ハミルトンは冷徹に国政を考えることができる頭脳の持ち主であり、度胸もあり実行力もあった。

だから、綺麗事の理想ばっかり吹聴しているジェファソンたちに嫉妬され、スキャンダルで陥れられた。

「移民の私生児が!」と影で言われつつ。

たかが不倫ごときの問題で。

ジェファソンこそ、黒人の奴隷女性を内縁の妻にして何人も子ども作ってたくせに。

英国王のジョージ3世が劇中で歌ってたぞ。

「おまえら、民を支配するってのは大変なことなんだぞ。孤独な仕事なんだぞ。為政者の厳しさをわかってないだろう、アホ!」ってさあ。

民主主義の実現の困難さについても意識しているミュージカルなんだ、このHamiltonは。

ともかく、Hamiltonというミュージカルは音楽も演技もダンスも素晴らしい!!

ブロードウェイ・ミュージカルは2001年のThe Producersで終わった……と、私は勝手に思っていた。

でも、さすがアメリカは人材の宝庫!!

Hamiltonのようなミュージカルを作る底力があった!!

で、私は思った。

かわいそうに、このミュージカルは、「反トランプ劇」というレッテルを貼られて、長い目で見ると、損をするぞ、と。

このミュージカルの作者もキャストも「移民の国アメリカを祝福するんだ!トランプだめだ!」のつもりでいるけれども、それ以上の価値があるのに、この作品には。

自分たちが作ったものを、自分たちで矮小にしている。

人種差別とか移民の問題じゃないのに……

私も、NHKの報道や、雑誌「ニューズウイーク」の記事だけ読んでいたとしたら、このHamiltonというミュージカルを見る機会があっても、見なかったろう。

「不法移民の取り締まりとアメリカ建国の理想をゴッチャに考える馬鹿リベラルの作ったラップがうるさいだけのミュージカル」と思い込んでしまうところだった。

せっかくの、ヒップホップの政治劇なのに!!歴史劇なのに!!

いやあ、メディアが賞賛するにせよ、批判するにせよ、メディアの評はあてにならない。

自分の目で見ないといけない!と、あらためて私は思った。

まあ、このミュージカルに関連して、書きたいことはいっぱいあるが、本日はこれぐらいにしておきます。

2017年8月現在のHamiltonも人気は衰えていないが、すでに主役はミランダさんではない。

オリジナル・キャストでやってない。

シカゴや全米ツアーやロンドンでも上演してるけど、オリジナル・キャストじゃない。

日本に来ることはないと思う。劇団四季がリメイクすることもない。

無理。

原作ミュージカルの冒涜になる。

でも、Hamiltonは映画化されるに決まっているので、映画化されたら見に行こう〜〜〜

その前に、ちゃんとロン・チャーナウの伝記を読んでおこう〜〜

今のアメリカに繋がるアメリカ合衆国の建国の秘密を妄想しよう〜〜

アメリカ合衆国の建国の理念つーのもね、とっても胡散臭いのね……

だって、移民で私生児で孤児の天才のアレグザンダー・ハミルトンを受け容れることができなかったんだからさ…

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