[352] 未明のERはこの世のCT画像

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本日は2019年2月11日月曜日だ。

建国記念日だ。日本、誕生日おめでとう!

ところで、先日の2月9日土曜日の未明(前)はヒヤリとした。

また夜更かししちゃったなあ、もう寝ようかな〜〜と思った2月9日午前1時近くに、私は夫の寝室のドアを開けて様子を見た。

ちゃんと問題なく眠っているかな?

そしたら夫は照明を消さずにベッドの上に腰かけている。

「お腹がずっと痛い。これから救急外来に行く」と静かに言う。

ええええええ?!

ひょっとして、またイレウス(腸閉塞)?!

ひょっとして、手術後数ヶ月してからの縫合不全?!

まさか、再発か?

胃に転移か?!

一瞬、この4つの懸念が頭の中であふれた。

後で夫に言わせると、「救急外来に行く」と夫が言った瞬間に私の顔に絶望と恐怖が走ったそうだ。

おそらく、その瞬間の私の顔の上半分を黒い影が覆ったか、黒い斜線がいっぱい出ていたのであろう。

救急車を呼ばなきゃいけないほどの痛みか?と、夫に尋ねたところ、そこまでは痛くないが、3時間以上シクシク痛いという。胃からお腹全体に痛いと言う。

急いで私は着替えて、タクシーを電話で依頼した。

バッグに夫の健康保険証を入れ、いつも行っている病院の診察券を持っているかどうか夫に確認し、火の元を確認した。

真夜中のことゆえ、電話したタクシー会社は、「いつタクシーの空きが出るかはわかりませんので、お待ちください」と言った。

幸いにも、すぐにタクシーの運転手さんが自宅の入っているマンションのインタフォンを鳴らしてくれた。

ありがたい!よし! いざ、行こう!名古屋第二日赤病院の救急外来へ!

まもなく救急外来の入り口に到着。

また来ちゃったよ、ここ。

去年の10月14日以来だよ。ほぼ、4ヶ月ぶりにまたかよ。

外来受付で症状を簡単に説明し、この病院で去年手術して、今は外来で抗ガン剤治療をしていると説明する。

係りの人は、まずはそこの用紙に名前と生年月日と住所を書いて提出してくださいと言うので、私が用紙に記入する。

なんか悠長だよね。

そんなもん書けない切迫つまった状態で、ひとりで外来に来たらどーするんだ。

係りの人は、保険証と高額治療ナンタラ証明書を私から受け取りコピーを取った後に、保険証と証明書を私に返却。

「病院内ではマスクしてください」と受付の女性が私に言う。

医療用マスクの袋はバッグにいつも入っているので、すぐにマスク着用。

夫は抗ガン剤治療中なんで、外出時はいつもマスク着用だから問題なし。

番号札を持って待合室の椅子に座る。

待合室のテレビでは、NHKの「アシガール」スペシャルの再放送。

この若様役の「健太郎」って若い男優は美形だな。

こんな時でも、そういうことを思っているのが人間。

真夜中の1時半過ぎなので、待っている人は、私と夫以外に7名だけだ。

白髪のかなり高齢のご婦人1名。

鼻血をティッシュで止めてる若い男性1名。

車椅子に座った老齢の男性と、その方の娘さんらしき女性の2名。

若い女性に連れ添っている同じく若い女性とお母さんらしき中年の女性の3名。

30分経過。

番号が呼ばれて、まずは看護師さんによるトリアージ室での問診。triage

トリアージとは、患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うこと。

看護師さんがパソコンに入力しつつ、夫に状態を質問する。

夫は腹痛はあるが吐き気はない。頭痛もない。便通はある。

足元がフラフラするわけでもない。血圧が高いだけ。

看護師さんは問診後に 夫の腕に注射器を刺して採血。

ともかく、緊急性はないと判断されたらしく、またも待合室に戻る。

去年の10月14日は、トリアージ室での看護師さんの問診の後に、すぐに医師の診察があり、すぐに検査で、その後に1時間かけてお尻の穴にチューブを挿入されたそーだ。

そうか……ならば今回は大丈夫かな。

でも、まだわからない

またも30分ほど経過。

番号が呼ばれて、非常に若い医師が待つ診察室へ。

若い医師もまたパソコンに入力しつつ質問。同じ質疑応答が繰り返される。

腹痛の理由がわからないのでレントゲン撮影とCT撮影しましょうとのこと。

まずレントゲンで胸部撮影。なんで胸部?

むやみやたらとレントゲン照射しないで欲しいなあ〜〜他人の身体だと思ってさあ。

また待合室で待機。

今度はCT撮影。骨盤と腹部撮影。

CTとはcomputed tomographyで、コンピューターによる断層撮影のこと。X線で身体の輪切りの画像を撮影すること。ドーナツ型の装置の中央に身体を置いて、周囲からX線を照射して、そのX線情報をコンピューターで解析して身体の断面の画像を得る。

この人体の断層撮影の基本=X線廻転撮影法Rotatographyを考案した方を私は存じ上げている。

日本人なのだ。この画期的方法を考えたのは。

高橋信次医学博士だ。

あ、GLA教団の創始者の高橋信次氏とは別人です。

宗教家とは関係ないです。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A9%8B%E4%BF%A1%E6%AC%A1_(%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E8%80%85)

しかし、人体の周りにX線を回転させて照射して、人体の中身を撮影するなんて、よく思いついたものである。

すごい。

そのすごい方を、どうして私は存じ上げているか?

まだ大学院生の頃、1980年の8月に、友人の友人のピンチヒッターで、愛知県がんセンターの「総長秘書」というアルバイトをしたことがある。

4週間だけの最初で最後の秘書体験。

その愛知県がんセンター総長というのが、高橋信次医学博士だった。

高橋信次博士は、1912年生まれ。東北帝国大学卒業後に青森医学専門学校で教鞭を取り、弘前大学教授時代の1953年に、このCTの基本装置を考案なさった放射線医学者である。

その功績で1954年に名古屋大学に招聘され、1964年に世界保健機構WHO放射線専門委員に選ばれ、1977年に浜松医科大学付属病院長に就任なさった。

その後、1983年に北米放射線学会名誉会員に選ばれ、1984年に文化勲章を受賞なさった。

1985年の没後に、スウェーデン王立科学アカデミーよりゴールドメダルを授与された。

もうちょっと長生きなさっておられたら、ノーベル賞生理学・医学賞受賞なさったかもしれない医学界の巨星でらした。

ところが、当時の私は、総長さんの経歴も業績も知らなかった。

「なんか偉いお医者さんらしい」ぐらいの感覚だった。

Google検索なんてない時代だ。インターネットができたのは1993年だ。Googleが設立されたのは、1998年だ。

今は、名前を検索すれば所属や経歴ぐらいは、すぐわかるが。

私の仕事は、まず総長さんが手書きで書いた英文の手紙をタイプすることだった。アメリカやヨーロッパの大学の医師あての手紙が多かった。

ワードプロセッサーもパソコンもない時代だから、タイプライターだ。

ただし、手動ではなく、すでに電子タイプライターではあったが。

英文手紙は、誰それを紹介するから会ってくれとか、うちの娘がそちらに行くのでよろしくとか短いものだった。

E-メイルとかない時代なので、国際電話か国際電報でなければ、通信は手紙しかなかった。

タイプし終わった英文手紙を総長さんに持って行ったら、総長さんは、それを一瞥して、「ああ、あなたは英語がわかるんだね」とおっしゃった。

あとの仕事は、書類のコピーと、お茶出しと、近所の喫茶店から総長のランチとしてサンドイッチを取り寄せることと、ランチに必ずグレープフルーツを半分に切り、食べ易いように切れ目を入れてサンドイッチに添えて出すことと、総長室の花瓶の朝の水交換ぐらいだった。

高橋信次博士は、全く偉ぶったところのない非常に自然体の実に温厚な方であった。

「ほんとに頭のいい人というのは、こーいう感じなんだなあ〜〜」と私は思った。

当時の愛知県がんセンターの医師は、私が見物する限り、感じの悪い奴が多かったが、総長さんは威張らなかった。

一度だけ注意されたことがあった。

北海道に行く日航の飛行機の切符が取れなかったと報告したら、「そういう時は、全日空を調べたり、翌日の便について調べるんですよ」と注意された。

そうか!!

まっこと、私は気の利かないアホであった。

ともあれ、仕事は簡単だった。楽であった。

それでも、私は、こーいう仕事は2度とゴメンだと思った。他人の手足でいることは、やはりつまらなかった。

まあ、しかし、「文化勲章受章者」の本物を私は見たわけだ。

今となってみれば、貴重な体験だった。

話を元に戻す。

CT撮影の話だ。

レントゲン撮影のあとにCT。

そのあとは検査結果診断待ちで、また待合室。

ところが、「造影剤CT」をすると看護師さんが言いに来た。

単純CTで区別がつかない病変は、造影剤を使用することで明確にわかるそうだ。

点滴室に入り、造影剤CT撮影の同意書に署名。

造影剤は、点滴から静脈に注入する。

その前に、造影剤の副作用を防ぐために生理食塩水を点滴される。

夫はベッドに横たわり生理食塩水の点滴を受ける。

点滴は時間がかかる。

その間に募る不安。

うわああ……再入院かしらん……

2月からの職場復帰は早すぎたか。

ここずっと、夫はけっこう食べていたしなあ。

職場復帰できて嬉しくて、調子に乗ったのかもしれない。

夫も不安げだ。

生理食塩水点滴をしたまま、CT撮影のために車椅子に腰かけて運ばれる夫。

造影剤点滴は、あっちで受けるんだな。

夫が戻って来るまで、私はベッドのそばのスツールに腰掛けて、いろいろ考える。

まあ考えてもしかたないので、初めて見るERの広いオフィスを観察する私。

今夜は、事件がないらしくて平和そうだ。

とはいえ、こんな真夜中に大変だなあ、ドクターもナースも……病人も大変だけどさ。

去年の11月の手術前にも、何度もレントゲンだのCTだのMRI magnetic resonance imaging だの受けた。

このMRIってのは、磁気共鳴画像のこと。強い磁石と電磁波を使って体内の状態を断面像として描写する。

組織と臓器には多くの水分が含まれている。その水分の水素原子の位置を磁石と電磁波が解析し、身体の部分の画像を作る。

X線ではないので、人体に悪影響はない。

すごいねえ……誰が考えついたんだ、そんなこと。

MRI装置は、要するに、穴の開いた大きな磁石だ。

その中を人体が通過する。

だから、身体の中に金属が入っている人は、MRIは受けることができない。

たとえば、ペースメーカーとか。

身体が磁石にくっついちゃう。

撮影中はものすごく大きな音を出す。実にうるさいらしい。

うわ。閉所恐怖症の人は嫌だろうな。

まあ、今回は、このMRI検査はない。

それにしても、レントゲンだのCTだの、そんなにX線を浴びていいものだろうか?

身体を切開せずして内臓の状態を見るには、それが一番確実なんだろうけれども、気楽にX線を使い過ぎの気がする。

1時間ぐらい経過して夫が戻ってきた。

ベッドの縁にチョコンと腰掛ける夫65歳と私66歳。

「ごめんね〜〜こんなんで」と夫は言う。

「ちゃんと側にいるからね〜〜」と言いながら、夫の肩に腕を回す私。

痩せて私より体重がかなり軽くなった夫の肩は前より華奢な感じだ。

「まあ、何が起きてもやれるだけのことをしようよ」と言う私。

で、午前4時半過ぎに医師がやって来て言う。

「腸が捻れてるとか、そういうことはありませんでした。転移もありません。腹痛の理由が見当たりません。強いて言えば、盲腸のところに大きな結石があります。これが動いて、大腸を引っ掻くことがあります。そうすると胃まで痛くなります。そういう可能性は考えられます。今日のところは痛み止めを処方しますので、ずっと痛むようならば、来週に外来で外科の診察を受けてください」

とりあえず、ホッとする夫と私。

でも盲腸の結石?虫垂結石?

そういえば、去年の手術前の主治医による断層撮影画像説明の時に、「盲腸のところに大きな石ができてますが、問題になっているわけではないので、今のところは放置でいいでしょう」と聞いた記憶があった。

すっかり忘れていた。

ふーむ……盲腸のところに石かあ。

スマホで「虫垂結石」を検索する私。

「盲腸の結石は、糞石のこともある」って……糞石って……クソイシ?フンセキ?

汚ねえ……

ということで、なんか拍子抜けしたような、おおごとではなく安堵したような、今度は虫垂結石かよ〜〜と面倒くさいような気持ちで、またしばらく待合室。

番号を呼ばれて、救急外科外来の受付側の自動支払機で診察料金を支払い、受付の隣室で痛み止めを薬局で受け取る。

13,380円か。検査料が高いな、レントゲンに造影剤CTだもん。

タクシー呼んで帰宅したのが、午前5時頃。

やれやれ。

なんなんだ、いったい、このよくわからん腹痛というのは。

食べ過ぎならば吐き気がするはずだから、やはり盲腸の結石かなあ?

また真夜中にお腹が痛いとか言い出されて、救急外来に行くのはかなわん。

その糞石だか何だか知らないが、盲腸の結石の処分をしていただかなくては。

普通の盲腸炎なら、今は手術なしで大丈夫。レザーか薬だ。

でも、虫垂結石なら、また手術かも。

まずは、主治医さんに相談させていただくしかない。

ということで、自宅に帰り着き、お白湯を飲む老夫婦。

一難去って、また(プチ)一難。

それにしても、非常に高齢そうな人品卑しからぬ女性がひとりで来院し、治療が終わると、フラフラしつつ帰りのタクシーに乗り込む。

点滴室で、胆嚢が悪いとか、いかにもアスペルガーっぽい医師に言われていた。

気丈な方だ。

頭がガンガン痛むと言う車椅子に乗った老人は、女医さんからナンタラ湿疹であって、脳内の問題ではありませんと言われて不服そうだった。

付き添いの娘さんにグジャグジャ不機嫌に何か言っていた。

甘やかされた日本の男の成れの果てって感じだった。

また、今日も、この世の断面を見せていただきました。

A slice of life, a real aspect of the world

真夜中のER emergency rescue は、まさにこの世のCT断層撮影による画像だった。

5件のコメント

  1. とりあえずは、よかったですね(^^♪ (よかったでいいのかな??)
    MRIはやったことあります。すごい音がするからとヘッドホンさせられましたが、それでもかなり大きな音でした。寝てるだけだけど、結構時間かかるし、白い壁(壁?)しか見えないし…。確かに閉所恐怖症だったら、発狂するかもしれないです(^^;
    しかし、CTを考案した先生の秘書をされていたとは、貴重な経験ですね。私の友人にも秘書をしている人がいますか、話を聞くたび、自分には無理だ…と思います(^^; 自分に秘書が欲しいくらいです(-_-;)

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    1. tabisurueiyoushiさま、コメントありがとうございます。はい、おかげさまで大ごとではなく安堵しました。もういつも心配してるのは消耗しますので、心が病むかもしれないので、私は私で自分のしたいことに集中する時間も作っています。このブログ記事書きもそのひとつです。

      ああいう検査機器って、大丈夫なのかなあと思いますね……でも、しかたないし。触診と聴診器だけで病気をあてるなんてのは超能力者かブラックジャックでなければ無理なのですから。

      もう、患者は、蛮勇に近い確信しかないですね。大丈夫だっていう確信。

      秘書さん体験で面白かったことのひとつは、秘書さんたちの生態でした。医師の研究費で雇われているので、みなアルバイト待遇だったんですが、結婚式披露宴で「愛知県がんセンター秘書」という肩書きが聞こえがいいということで、地元のお嬢さん大学の美人卒業生がわんさか、いました。

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      1. 気を紛らわすことができるものがあるのはいいですよね(^^)/
        確かに、機械を使わず、病気をあてたら、超能力者かブラックジャックしか無理ですね…(^^;
        でも、私が子宮筋腫だと分かったのは、中医師の先生の脈診だったんですよ~。脈を診て、「血圧高い?動脈硬化は?」って聞かれて「違います」と言ったら、「子宮筋腫か内膜症だから病院に行って」って言われて( ;∀;) 嘘でしょ?って思って病院行ったら、子宮筋腫と卵巣嚢腫で、有無を言わさず手術になりました(>_<)
        確かに患者は大丈夫だって思わなきゃ、手術を受けることも怖いですね"(-""-)"
        秘書さん体験エピソード、おもしろいですね(^^)/~~~ でも、確かに聞こえはいいですから、お嬢様の働き口としてはよさそうです(*^^)v

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