[539] 11/6/2021 大衆支配管理法の寓話としての山下和美著『ランド』(その2)

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本日は2021年11月6日土曜日です。

明日は7日で、はや立冬。

いろいろな真実が暴露されて、私の頭も心も刺激されっぱなしで、忙しい今日このごろです。

例の京王線テロ事件について、「あれはショック・ドクトリン」という説が以下のブログに書かれている。あの事件は、顔認証ができないと公共交通機関を利用できないように国民管理するために起こされたものであるという説です。

ご興味のおありになる方は読んでみてください。このブログについても、Facebook友だちのおひとりに教えていただいた。

ところで、前回の続きです。山下和美さん著『ランド』について。

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前回で書いたように、この漫画に描かれる世界は、3つの世界から構成されている。

ひとつは、日本沈没後の日本列島に残された海抜の高い地域にあるランド株式会社によって運営される未来社会的ハイテクな世界である「ランド」。

この「ランド」においては、望めば人は老うことがない。22歳でストップすれば、ずっと22歳の若さを維持できる。身体的には。

ただし、「ランド」では可能なことになっている不老不死だけれども、実は永遠に若いままで生きることができるかどうかは未確定。

なぜならば、「ランド」の歴史はまだ150年も経過していないから。

「ランド」を楽園にしているのが、「あの世」だ。「あの世」では、50歳過ぎた人間ばかりで構成され、彼らや彼女たちは死ぬまで重労働をする。

「ランド」が楽園であるためには、底辺労働をする人間が「見えない」ことが大事。社会的に最下層で搾取される立場のない人が「見えない」ということが重要。

ディズニーランドみたいなもんよ。あそこはディズニーが夢見た永遠の若さの国だから、25歳以上のスタッフはいない。(ということになってる)。

夢の国だから、蚊も蠅もいない。虫いない。芝生にはしっかり殺虫剤が撒かれている。

永遠の若さの夢の国では、不快なことは存在しない。不幸や社会的不正は見えちゃいけないの。

私たちの生きる世界だって、そうでしょう。この世の搾取構造が見えず、日々を享楽的に生きている人間にとっては、この世には何も問題がないように見える。

でも、そう思う人間は無知なだけだ。視野が狭いだけだ。自分のなに不自由ない生活を支えている仕組みが見えないだけだ。

甘やかされた脳足りんガキには、自分が依拠する世界の仕組みは見えない。

どっかの、さげ○○詐欺師男にひっかかるお姫様みたいなもんよ。これから、失った特権の大きさを思い、じわじわと後悔してください。

「ランド」の人々が快適に暮らすために必要な底辺労働の供給場が「あの世」。ここに送り込まれた50歳以上の人間は、自分たちは天国にいると思い込み労働に勤しむ。

そんなアホな!と思うでしょう。

でも、人間って、どんなふうにでも洗脳されるじゃないですか。

50歳まで生きることができる人間が行く名誉ある場所が「あの世」であり、「あの世」は充実した素晴らしいところと、ひたすら教え込まれれば、そう信じてしまう。

今の私たちには、戦前の小学校には天皇皇后の写真(御真影)が飾られている部屋があって、小学校が火事にあったときに、その御真影を守って持ち出そうとした校長が焼け死に、それが美談として報じられたなんて事実は、信じることができないでしょう。

そういうことが、あったんよ!

「現人神」(あらひとがみ)なんて概念は、今の私たちは信じることができないでしょう。

情報のない閉ざされた世界に生きていると、その世界内に通用している常識が、真実であり真理になってしまう。

そういう人間を養成するのが「この世」。

文字も情報も外部との接触も何もない世界である「この世」。

与えられたことが事実で正しいと疑わない人間を「この世」で育成し、その人間が50歳になったら送られるのが「あの世」。

こうした「この世」と「あの世」に支えられている不老長寿のハイテク社会が「ランド」。

まさに、これは、私たちが生きている社会の縮図でしょう。私たちの社会は「あの世」と「この世」が混在しているけれども。

「この世」は、ひたすら思考停止であることを習慣化する洗脳世界。

「あの世」は、賃金労働に消耗する世界。労働で得たものは容赦なく税金として収奪される。

「ランド」は、超特権的富裕層の世界。

このような構造を知らず日々を生きる人々の脳を麻痺させる装置はいっぱい。教育も娯楽もメディアもSNSも学問も大衆支配管理のための装置。

で、ですねえ、この漫画は単にこの世界の大衆支配管理法の寓話であるだけではないんですよ。

「人間ってこの程度の水準の人間が多いので、支配管理され奴隷になるのも仕方ないんだよね。自業自得なんだよね」という作家の声も、この作品から聴こえる。

ネタバレになるので、この3つの世界を作り、コントロールしてるのは何者かについては書きません。

ただ、この「何者か」は、「ランド」も滅ぼそうと思っている。

せっかく理想的な社会を提供したのに、永遠の若さを人間に提供したのに、人間はちっとも賢くならなかったから。

「この世」は、人類史をもう一度やり直すつもりで作ったのに、そこでの人間は、合議制の相互扶助社会ではなく、ピラミッド型の階層構造を作ってしまう。身分社会を作ってしまう。

日照りが続くと、赤ちゃんを殺して、人身御供にしてしまう。

教えられたことを疑わずに、自分の頭で考えずに、慣習で動く。狭い村の社会で嫉妬反目しあって、マウンティングしあっているだけ。

自分たちの頭の上に広がる空は、巨大なドームに覆われていて、雨も雪も、ドームが開いて人工的に誰かが降らしてるなんて、つゆとも想像できない。

50歳まで生きたくせに、まったく進歩がなく、「あの世」に行って重労働に苦しみつつも、「なんか変だよね?」と思いもしない。

人間ってアホなんだわ…

まさに自分で自分をアホにして人生を牢獄にしてる。

自分で自分に呪いをかける。

人間は救いようがない。もう、「この世」も「あの世」も「ランド」も壊そうか、無意味だわ…

大衆ってさあ、支配管理されてもしかたないんだよ、程度低いからさあ。自分たちを苦しめている存在を崇め奉ってるんだからさあ。ただの一般通念の思い込みにしか過ぎないことに呪縛されて自分で自分の人生を狭く限定してるしさあ。なんで、もっと真っ直ぐに幸福を求めないのかねえ?悪夢ばかり夢見てさあ。もっと良い夢を見たら?あなたの心はあなたが自由にしていいのだから。

という作家の声は、アイン・ランド(Ayn Rand: 1905-82) の小説の『水源』や『肩をすくめるアトラス』や『アンセム』にも通底する声だ。

また、私が卒論や修論で取り上げたMark Twain(1835-1910)のThe Mysterious Stranger(中野好夫訳『不思議な少年』岩波文庫)の中で時空を旅する悪魔と自称する少年がいう言葉にも似ている。

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この中編小説は無茶苦茶に面白いです。大学時代に読んで、よし、卒論はこれにしようと思った作品です。

ただし、この中編小説は、作家のTwainが死後に遺した3つの原稿を、遺稿管理者が適当に組み合わせて、ひとつの中編に構成し直したもの。

これらの遺稿は、The Mysteripus Stranger No.44 と名付けられて、まとまって出版されている。1994年には翻訳も出た。

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私が卒論や修士論文を書いた1970年代には、この事実は、あまり知られてもいなかったし、翻訳もされていなかったけれども。

厳密に言えば、The Mysterious Strangerは、Twainの遺稿から適当に構成し直したものであって、これを一つの完成された作品として考えるのは無理がある。

でも、まあ遺稿に残された世界観、人間観は、The Mysterious Strangerにちゃんと活かされている。東大英文科教授だった故中野好夫氏の翻訳も素晴らしい。

あれ?珍しく、私は英文科出身らしいこと書いてますね〜〜

なああああああんと、驚いたことに、山下和美さんは、『不思議な少年』という全9巻の漫画も書いておられる。

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内容は歴史を旅する不思議な少年……

おおおおおおおお……

Mark Twainの作品からヒントを得たそうである。やっぱり!

山下和美さんは、アイン・ランドやMark Twainと同じテーマを作品に描いたことにおいて、私の類魂!

魂が似てる類魂!

レンコンじゃない。

少なくとも、考える方向性は似てるよね。

と、勝手に決めつけた。

ああああ……子どもの頃に私は漫画家になりたくて、学校から帰ると、学習塾もさぼり、わら半紙をコマ割りして、漫画を描いていた。

あの日々を粘り強く続けるべきであったか……

まあ、いいよ。

ともかく、山下和美さん著『ランド』は面白い!ということでした!

私としては、ランド株式会社のシステムをもっと詳しく描いていただきたいという気持ちもあるけれど、これは寓話ですので。

寓話。

リアリズムでは描けないことも多いのだよ。

https://shushi.marvellous-labo.com/asahikawa/shomei/

4件のコメント

  1. こんばんは。
    山下さんて、とても知的な方なのでしょうね。私はこの世界に絶望はしていませんが、世界はそんなに美しいものではないことだけは、理解しているつもりです。日々、色々おかしいと思うことはあっても、粛々と生活することしかできませんが。

    Twainの『不思議な少年』は10代の頃に読みましたけど、遺稿管理者が3つの作品を勝手に纏めたものだとは知りませんでした。びっくりです。
    Twainの作品とはまるで異なる話ではありますが、少年ものではアゴタ・クリストフの『悪童日記』から始まる三部作も好きです。

    いいね: 1人

    1. コトリさま

      コメントありがとうございます。

      山下和美さんは知的な漫画家さんですね、たしかに。「不思議な少年」全9巻も読んでみましたが、人間観が深いです。一度読んだくらいでは、理解できないくらいの深さです。

      日本の漫画は文学ですねえ。松本大洋の「Sunny」なんて、養護施設の子どもたちを描いて、ほんと文学してました。

      「悪童日記」ですかあ。機会があったら読んでみます。

      いいね

      1. こんばんは。
        返信ありがとうございます。
        『悪童日記』は映画化もされていますが、私は未見です。
        いつも先生のコメントに「いいね」を押したいのですが、アカウントを持っていないので押せません、、、ごめんなさい。
        App;e IDでできるのかと思うと、IDないですよ、と言われます。うーん、、、

        いいね: 1人

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