本日は2021年12月31日金曜日です。
2921年最後の日です。大晦日です。
今年のBlogは昨日で終わりと思っていたのですが、かなりユニークな小説を読んだので、紹介します。
2020年に、私は、KKベストセラーズのWEBマガジンBEST T!MESに子ども虐待に関して記事を書きました。
https://www.excite.co.jp/news/article/BestTimes_11260/
それを読んでくださった方が、先日12月の半ばごろに、Facebookにメッセージをくださいました。
その方は、虐待サヴァイバーに関する小説を上梓したので、献本したいと申し出てくださったのです。
送っていただくのも何だしと思い、私はすぐにAmazonに注文しました。
ドタバタ忙しかったので、やっと昨日、読了できました。

それは非常に風変わりな小説でした。
同時に非常に美しい物語でもありました。
以下は、Amazonのレヴューに書いたものの転載です。
(転載はじめ)
引き込まれて読んだ。「虐待サヴァイバー文学」の一種であるが、それを超えた文学的挑戦でもある。
ふたりの著者たちが、しりとりのごとく、互いが送りあった物語に呼応して、さらに物語を作り、その往還が大きな物語として広がり救済へと収斂されるという構成がユニーク。
虐待されて孤独な傷つく子どもの心の奥だけに出現するピンクの優しい象。
傷ついた子どもの心の闇のシンボルである黒いネズミの群れが箱から溢れることを監視し抑えてくれる幻の猫。
苦しむ子どもたちを救うために休暇中なのにトナカイの代わりにいっぱいの猫を空に駆るサンタクロース。
異世界の天使たちに作られたバイクだけが友であり恋人である少女は、そのバイクで疾走する。
傷だらけの子どもたちの隠れ場所を教えてくれる猫の不動産屋。
苦しむ子どもたちに猫を派遣してくれる仮想現実の会社。
自分に唯一優しくしてくれた吸血鬼を愛し自分も吸血鬼となり永遠の命を得る虐待された少女は現代では歌姫になっている。
これらの魅力的で瑞々しい数々のファンタジーが、現代の生々しい虐待されている子どもたちの物語と緊密に結びついて、救済へと繋がる。
(転載おわり)
タイトルのVoyagerですが、現実を描いた物語と歴史を超えるファンタジーが交錯し、時空を行き来するので、この小説そのものが航海者。
母親に虐待される少女(著者の吉野さんの少女時代がモデルでしょうか)は人生という海の航海者。
そして、読者も、繰り出されるファンタジーとリアリズム小説の間を行ったり来たりするので、航海者。
著者たち、おふたりも航海者です。互いの間を行き来する物語は、どんどんあらぬ方向に展開します。しかし、作品は、虚空を漂流してきた宇宙船が何億光年も離れた故郷の星に帰還するごとく、ちゃんと着地します。
でありますから、読者は作品世界にドップリと浸かり付き合うことを覚悟して読み始めてください。
夜の海を星あかりを頼りに、凪の風を感じつつ行く帆船のごとく、じっくりゆっくり読み進めてください。
読書っていうのは、本当は、そういうものであります。
結論を急いで知りたがってはいけません。
人生と同じです。
性急に決めつけてはいけません。
性急に自分も他人も評価値踏みしてはいけません。
わかったつもりになってはいけません。
すぐにわかることなんて、人生にひとつもありません。
自分の心の奥にある痛みや哀しみや怒りや古い傷について、陳腐な言葉で説明して、わかったつもりでいてはいけません。
わからないなら、わからないままで、大事に抱えていればいいのです。
おそらく、傷つかないと見えない真実もいっぱいあるのでしょう。
認識とは暴力的なものです。
それでも、人生には不思議がいっぱいで、奇跡がいっぱいで、自分は何者かに助けられてきたことがいっぱいだったとわかることもあります。
私は、いろんなことが知りたいという欲だけはいっぱいにあるので、ついつい情報収集だけのための読書をしがちです。
ゴーストライターさんが上手くまとめましたね的な、ザザザザザと読めば、そこそこ理解できる本もいっぱいありますから。
しかし、書き手が祈るような気持ちで書いたものもあります。
そういう本は、ザザザザザと読めないのです。
『Voyager』は、そういう本です。