本日は2025年1月6日月曜日です。
朝の吐く息が白く、午後遅くからは冷たい雨も降ってきました。
でも、本日の午後に見た映画版『正体』がとても良かったので、冷たい雨も気になりません。
上映時間2時間は、あっと言う間に過ぎます。
横浜流星くん演じる主人公の苦難と孤独に涙しつつ、最後はもっと涙が迸ります。
うーん、横浜流星くん、大丈夫か。
28歳でこんなハマり役で大役。
NHK大河ドラマの「べらぼう」の演技もいいしさ。孤児が健気に明るく優しく親切で、ついには江戸の出版界の風雲児となり、数々の天才絵師や戯作家のサポーターとなる。
ああ、しかし、若い頃の成功の後が怖い。
旧ジャニーズ事務所のタレントみたいに流星くんはアホで下品じゃないからこそ、心配になる。
週日のこともあり、観客は多くはなかったのですが、みなさん、映画のクレジットが全部終わるまで席を立ちませんでした。
私なんかは、「くっだらねえ、時間の無駄だったわ」と思うと、クレジットなど見ずに席を立ちますが。
あの『君の名は。』なんか、ほんと酷かった。
思い出しても、むかつくわ。
それはさておき、なんで私は『正体』を見に行ったか?
横浜流星くんが好きだからじゃないのです。流星くんは好きです。流星くんを嫌いな女なんかいねーよ。
でも、『正体』を見に行ったのは、それが理由じゃないです。
正月中にダラダラ徹底的に廃人をしまして、Netflixで見たドラマが全4回の『正体』でした。2022年の作品です。
なあああんとなく題名に惹かれて見てみました。
これがかなり良くできた連続ドラマで面白かったのです。
主演は亀梨和也くんです。

私は亀梨和也くんと佐藤健くんの顔が区別がつきません。
軽薄そうじゃない方が亀梨くん?
亀梨くんは、なかなかいい俳優になったなあと思いました。
旧ジャニーズ事務所風味が消えていた。良かったね!
無実なのに死刑宣告を受けた18歳の男の子が脱獄して、移動しつつ変装しつつ真実に肉薄していくプロセスが丁寧に描かれていました。
この物語は、アメリカの「逃亡者」The Fugitiveという1960年代に人気を博したドラマが元になっています。多分。これ、映画化もされましたね。
主人公は妻殺しの嫌疑で死刑宣告を受けた医師なのですが、脱獄して、真犯人を探すプロセスで、出会う人々を助けていくという話です。
まあ、イエス・キリストが医師となって市井の人々を奇跡のように助けていくと思ってください。
この「逃亡者」だって、もとはビクトル・ユーゴーの「ああ無情」だもんね。あの主人公は死刑宣告されたわけじゃないけど。
このドラマ『正体』には原作があります。染井為人氏の『正体』です。
染井氏は1983年生まれで、芸能マネージャーから演劇のプロデューサーとなり小説家になった方です。
デヴュー作は『悪い夏』です。この作品で第37回横溝正史ミステリー大賞優秀賞を2017年に受賞しました。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%93%E4%BA%95%E7%82%BA%E4%BA%BA
ドラマを見終わった後、私はすぐにKindleで小説『正体』を購入し読んでみました。

ドラマと原作の小説は別物でした。
え?映画化もされてる?
調べたら、シネコンでまだ上映されてるぞ。
行くべ行くべ。
で、映画版は原作に忠実だろうか?
結果として、映画と小説も別物でした。
ついでにドラマと映画も別物です。
映画は、なるたけ映画的な見せ場が多いように、小説からかなりの部分をカットしています。
キャラクターも違います。
設定も違います。
結末も違います。
原作は、「逃亡者」の枠組みを借りた現代日本の諸断面を垣間見せる社会派小説です。
建築作業現場で使い捨てされる下請け労働者の実態。
フリーライターの仕事で成立する日本の雑誌や出版界。
旅館の住み込みの季節労働者の暮らし。
主婦のパート労働で支えられる地方の食品工場。
信者の個人情報を特殊詐欺の闇組織に売る新興宗教団体。
常時介護士不足の老人施設の実態。
メンツと威信のために冤罪とわかっていて冤罪を生産する警察と司法。
私としては、主人公の若者が関わる人々を取り巻く現代日本の諸相が、映画ではかなりカットされていたのは、残念でした。
映画は、そういう現代日本の諸相紹介よりも、自分の無実を証明しようとする若者の孤独と哀しみと精神の強靭さを描くことに主眼を置いていました。
監督は、藤井道人氏です。1986年生まれで高校時代から映画監督になることに決めていたそうです。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%97%A4%E4%BA%95%E9%81%93%E4%BA%BA
私は、この監督の作品は『新聞記者』と『パレード』だけ見ています。
若い監督らしく、今のホワイト社会の人らしく、私からすると、ちょっと甘いなあ……と思ってしまう作風です。
でも、まあ映画版『正体』は、甘いといえば甘いけど、その甘さも悪くないと私は思いました。
主人公の若者を逮捕し、逃亡後は追い続けるエリート刑事は、原作では父親が警察組織のエリート幹部であり、本人も傲慢で強引な人物です。
彼は、真実の追求より、警察組織の威信とメンツを守り、かつ自分のキャリアを守ることしか興味のないエリートクズです。
映画版のエリート刑事は、山田孝之くんが演じているのですが、この山田くんが良かった。
ひょっとしたら、この若者は無実なのかもしれない……と心が揺らぎ、山田くん刑事は、ついには上司の言葉に逆らい、誤認逮捕であった可能性を記者会見で述べます。
これで、この刑事の組織内出世は無理になりますね〜たとえキャリアでもね〜
非常に甘いですね。うん。
こんな警官いないね。
でも、こういう警官が存在してほしいじゃないですか。
私がもっとも感動したのは、原作にはない言葉でした。原作にはない設定でした。
山田孝之くん演じる刑事は、映画の終盤で、主人公の若者に接見して、「なぜ逃げたのか」と問います。
してもいない殺人の罪で死刑宣告を受けたのだから、逃げることができる機会があるのならば、逃げるに決まってるだろーが、と思います。
唐突なセリフです。不自然です。???です。
おそらく、エリート刑事の不自然な問いは、監督(脚本家でもある)にとって、映画の中で若者に次のように言わせるために必要だったのでしょう。
若者は、こう言うのです(私の細かな記憶違いはお許しあれ)。
「この世界を信じたかったんです。正しいことが正しいと通用する世界だと信じたかったんです。逃げて、いろいろなことを経験しました。初めて酒を飲みました。友だちもできました。好きな人もできました。ああ、生きていて良かったなあと思ったんです。だからもっと生きていたいと思ったんです」
もうここで私の涙腺は大決壊です。
横浜流星くんの清冽な演技が心を打ちます。
「この世界を信じたい」
これは、意識するにせよ、意識しないにせよ、私たちの心の奥底の思いではないでしょうか。
いかにクソみたいな世界に生きていようと、やはり私たちはこの世界を信じたいのではないでしょうか。
ハッキリ言って、映画は、現代日本社会の理不尽と搾取に満ちた諸相の提示において、原作にはるかに劣ります。
登場人物の丁寧な描写は、TVドラマの方がはるかに優れています。
でも、主人公の若者のこの言葉において、映画版『正体』は、優れてポジティブなメッセージを観客に伝えることに成功しています。
甘いといえば甘いです。いかにも、お子様ランチ風ホワイト社会らしい映画です。
でも、このような甘さは大事だ!
生きよ。
出会え。
やってみるんだ。
この世界を信じよう。
生きることって面白いんだよ。
希望を持っていていいんだよ。
