本日は2018年2月25日日曜日だ。
先日、iPadで「あの人はどうしてるかな?」と思って、Suze Orman(1951-)なる人物について検索してみた。
この女性は、アメリカの個人財政問題カウンセラー(personal finaicial adviser)で、有名だ。
1990年代から活躍し始めて、2008年のリーマンショック後は爆発的人気を博した。
この女性のThe Suze Orman Showは高視聴率を誇る人気番組だった。
どんな番組かと言うと、借金を抱えて家計がにっちもさっちもいかなくなった人々が、彼女に助言を求める視聴者参加番組だった。
私は、この番組の動画を視聴するのが好きだった。
リアルタイムには視聴できなくても無料の見逃し配信みたいなのがあった。
で、いろいろ驚いた。
リーマンショック前のアメリカ人庶民のかなりが、身の丈にあわない消費生活に溺れて、借金漬けになっている様相が見えた。
それから、こんなの相談するまでもないだろ・・・収入以上は使わないことにするしかねーだろ・・・と思わせるような家計問題を、あからさまに家計の内情を晒して相談するアメリカ人というものについても、おもろいなああ~~と感心した。
あれから10年近く経過。
さて、かの「家計問題コンサルタント」であり「アメリカ庶民の経済生活のグル」であるスージ・オーマンさんは、今はどうなってるのかな?
と、私は思い出し検索してみた。
そしたら、まだ健在であり、そこそこ人気もあるようだった。
彼女は、去年から今年にかけては、自分の書いたお金本のいくつかとオーディオブックをまとめて、ゴールドのプラスチックのケースに入れて特価「81ドル」で売ります~~~というTV通販番組に出演していた。
定価で購入すれば、全部で200ドルはするものを、セットで81ドルで売っていた。
あらあ。
彼女は私より2歳年上だからな67歳だ。
引退前の「損切り安売り在庫整理」を始めたらしい。
2009年当時は、ひたすらアメリカ人視聴者に、「節約しなさいよ~~」とか「貯金しなさいよ~~」とか「クレジットカードは使わずに鋏で切りなさい!!」とか「立ち直るために自己破産しなさいよ~~ただし学資ローンは自己破産できないからね~~」とか、訴えていたスージ・オーマンさん。
アメリカも不況が長引き、アメリカ人も昔の堅実さに戻るしかなくなった。
だから、スージ・オーマンさんの役割も終わったのかもしれない。
私は、(数年前に放送終了したが)The Suze Orman Showの日本版を日本のテレビ局が作ったら、おもろいなあ~~と思っていた。
なんのかんのと言っても、日本のテレビドラマは、アメリカのドラマの真似だもの。
アメリカでヒットしたドラマやクイズ番組やバラエティ・ショーを日本風にしたものが作られてきたのだもの。
しかし、さすが、自分の家計の内実と顔を晒して、「こんなに借金だらけです~~どうしたらいいですか~~」と相談する番組は、日本人には無理だったようだ。
で、(前置き長いですが)今日は、2014年1月に私が「日本アイン・ランド研究会」http://www.aynrand2001japan.com/ の「アキラのランド節」というコーナーに書いた記事一部を、ここに転載する。
http://www.aynrand2001japan.com/akira/akira20140113.html
お気が向いたら、読んでやってください。
長いですけどね。
(転載はじめ)
私が2009年の1月にニューヨークに行ったときに、マンハッタン5番街の書店の一角を閉めていたのは、いわゆる”how to save money and get out of debt”系本ばかりだった。つまり、「節約して借金を返そう」「無駄使いはやめよう~~」がテーマの本ばかりだった。
びっくりしたよ。
だって、あの貯金はしないアメリカ人が。ポジティヴ・シンキング(positive thinking)で、行け行けドンドンのアメリカ人が。何枚ものクレジット・カード使ってバンバン買い物するアメリカ人が。コンビニでの少額の支払いでさえ、クレジット・カード使うようなアメリカ人が。
そのアメリカ人が、「クレジット・カードを捨てなさい。現金で買えないなら、買うのやめよう」と書いた本を読むなんて。
さすがに、アメリカ人は変わり身が速い。素直である。その前年の秋にリーマン・ショックがあった。リーマン・ブラザーズが倒産した。そのあおりで、いろんな会社が倒産した。アメリカのバブルが弾けた。
それまでは、ロバート・キヨサキ(Robert Toru Kiyosaki)の『金持ち父さん貧乏父さん』(Rich Dad, Poor Dad)みたいな不動産投資とかの本ばかりが売れていたからね。借金して不動産買おう~~レバレッジかけて、大借金して、勝負かけよう~~元手が1万ドルでも、それを百万ドルにしよう~~みたいな本ばかり山積されていたからね。
ところが、2009年1月は、「節約と借金返済」の本ばっかりだった。
なんちゅう対応の速さよ。
2009年1月当時は、テレビをつければ、借金を整理してあげますよ~~という「借金弁護士」(debt lawyer)のCMばかりだった。
PBS(アメリカ公共放送。寄付で経営してる。ちょっとは連邦政府の補助金も出てる)では、スージー・オーマン(Suze Orman:1951-)という女性が、講演していて、人気を博していた。
スージー・オーマンは、シカゴ出身。州立イリノイ大学(University of Illinois at Urbana?Champaign)のソーシャル・ワーク学科(社会福祉学科みたいなもんか?)を1976年に卒業した。その後は、ウエイトレスをしていた。4年間ずっとウエイトレスをしていた。収入は月収$400だった。1970年代後半だと、そんなもんだろう。田舎ならば、それでギリギリ暮らせただろう。
しかし、いつまでも、ウエイトレスをやっていられない。スージー・オーマンは、自分のレストランを持ちたかった。けれど、カネがない。レストランを開くには、最低まずは$20,000が必要だった(当時だからね、1970年代後半だから)。
親に話したが、「そんな余裕はない」と言われた。だよねえ。日本の親みたいに子どもに甘い間抜けじゃないよ、アメリカの親は。日本の親は、自分の老後を守るカネを、バカ息子の絶対に失敗する事業とか、「振り込め詐欺」に使ってしまうからねえ。よっぽど、甘く生きてきたんだな。
だから、スージー・オーマンは浮かない顔で、職場のレストランで給仕していた。そしたら、「どうしたの?いつもの君じゃないね?」と、馴染みのお客さんのフレッドという老人が話しかけてきた。スージーは、客に人気のある有能なウエイトレスだったから。事情を、彼女はフレッドに話した。
そしたら、なんと、そのフレッドが自分のお金を出してくれた!他の常連の客にも話して、お金を集めてくれた!$52,000ものお金を!ほんまかいな。
そして、フレッドは、彼女に言った。「このお金は利子をつけずに、10年以内に返済してくれればいいよ。ただし、このお金はすぐに使っちゃいけない。まずは、メリル・リンチに行って運用するんだ。レストランを開けるぐらいになるまで、この金を大きくするんだ」と。
スージー・オーマンは、その通りにした。投資や金融のことを知らなかったから、Wall Street Journalとかも読み出した。テレビの金融情報番組も視聴した。
ところが、大証券会社メリル・リンチの担当者のランディという株式仲買人(broker)が運用に失敗して、その$52,000は消えてしまった!
スージー・オーマンは、あんなランディみたいな馬鹿でも株式仲買人ができるのならば、私だって株式仲買人できるだろ~~と思った。で、なんと、メリル・リンチの求人募集に応募した。でもって、採用された!!1980年のことだ。
ここから彼女の運がつき始めた。
彼女は、メリル・リンチ(Merrill Lynch)の投資アドヴァイザーとして頭角を現した。この会社は、リーマン・ショックで倒産しかけて、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)に吸収されたけどね~~
1983年には、プルデンシャル・セキュリティーズ(Prudential Securities)の副社長にスカウトされた。この会社は、今は、Wachoviaっていう金融会社に吸収されているけどね~~
それから彼女は、1987年に独立する。「スージー・オーマン金融グループ」(the Suze Orman Financial Group)という会社を立ち上げた。それ以降、10年間、ずっと、この会社の重役を努めた。
フレッドから借りた$52,000は、ちゃんと全額返済した。ちょうど、そのとき、フレッドが経済的に苦しい時期だったので、その誠実な返済は、非常に喜ばれた。よかった、よかった。借金は返さないといけないよ。
私はさ、12年前に『Recoreco』っていう書評ガイド誌に書評原稿を書いていたのだけど、その原稿料を踏み倒されたからね。会社が倒産したとかでね。せいぜい20,000円ちょっとぐらいの少額といえども、むかついたよ。
これには後日談がある。2009年に桃山学院大学の私の研究室の隣の研究室に入った新しい同僚が、私に挨拶した。「『Recoreco』の出版社の経営者は、私の姉です。その節はお世話になりました。藤森さんの原稿は面白くて、私も読むのを楽しみにしていました~~」ってさあ。
アホか・・・そんなことはどうでもいいんだよ。ちゃんと原稿料を払えよ。人の時間とエネルギーをなんだと思ってんだ?お前の姉ちゃんは、東大を出ていながら、そんなことがわからないのか?そいつも、かなり、トンチンカンだったが、姉妹そろって、トンチンカンなんだな。
話題をもとに戻す。スージー・オーマンは、その後は、一般庶民のための「金融知識啓蒙家」になる。いろいろな本を書いた。
まずは、1997年の『お金のことで自由になるための9つのステップ』(The 9 Steps to Financial Freedom )だ。
次は、99年の『稼いだんでしょ。ならば、失ってはいけない』(You Earned it Don’t Lose it )だ。
同じく99年には、『金持ちになる勇気』(The Courage to be Rich)を発表した。
これらの本のタイトルの明快さと、その率直さ! 彼女の本は売れた。文章は平易で読みやすく、内容は具体例に満ちていた。2001年には『富への道』(The Road to Wealth ) を出版した。
スージー・オーマンは、まるで21世紀のベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin:1706-1790)になった!フランクリンつーのは、アメリカ独立革命の中心人物のひとりで、フリーメイソンで、女装してヨーロッパでスパイ活動したりした。アメリカの成功哲学の元祖みたいな人。
そして、とうとう2002年には、テレビで自分の冠番組「スージー・オーマン・ショウ」(The Suze Orman Show) を持つようになった。
2005年には、『若くて、素晴らしくて、破産している人のためのお金の本』(The Money Book for the Young, Fabulous and Broke )を出版した。
この本は、学校が決して若い人々に教えないカネの管理や、学資ローン(Student loan)への姿勢などを書いたものだ。
アメリカでは(日本もそうなっているのだけれども)、いい職がないからということで、大学院に行ったりする人々が多い。学部の時に借りたstudent loanを返済できないままに、大学院に行って、student loanを借りる。
しかし、大学院を出ても就職先などない。それで、$80,000ドルとか$100,000ドルとかの借金を抱えている人が多い。1000万円以上の学資の借金・・・はあ・・・・
アメリカの大学の授業料は高いからねえ・・・私立大学ならば、年間授業了は400万円ぐらいだ。州立でも、安くても150万円以上はかかる。
それで、スージー・オーマンさんは、そういう若い人に、ほんとうに自立することの大変さと具体例を教えるのだ。
アメリカの中産階級の若い子は、子どもの頃から大事にされて、可愛がられて、世の中の実相を知らされない。偽善や綺麗事は、日本以上に、アメリカの中産階級の若い人の頭をクルクルパーにしてきた。
ほんとうに頭のいいやつは、早々と、世の中の建前と真実を見分ける。でも、頭が悪いと、表面の偽善や綺麗事が世の中だと思い、人生に失敗する。
スージー・オーマンは、そこんところを突く。人生の真実に立脚しなさいと。まず、カネの問題から逃げるわけにはいかないよって。アメリカのstudent loanは、自己破産の対象にはならないよって。自己破産宣告しても、student loanは残るんだよ、って。
日本では、法的に自己破産すれば、奨学金(って、名称は詐欺。学資借金だ !返済が無用のものを奨学金と言うのだ!)は返さなくてもいい。いずれ、日本でも、こういう例は増えるだろうな。
しかし、アメリカでは、そうではない。日本は、まだ甘いんだよ。
スージー・オーマンは、student loanの金利を低くしたり、student loanも自己破産の対象にする法律の立案と施行のために、民主党の政治家たちに働きかけている(彼女は、民主党への多額献金者)。
しかし、この実現は、なかなか難しいだろうなあ・・・
ともあれ、スージー・オーマンは「個人財政導師」(personal financial guru)になったのだ!アメリカのノンキな一般庶民が知らないことをいっぱい教えてくれる頼れる「お金の先生」になった!
2007年には、特に大ヒットした『女性とお金』(Women and Money: Owning the Power to Control Your Destiny)を発表した。これは、私も読んだぞ!!
スージー・オーマンの著作で、日本で翻訳されているのは、一冊だけある。畠中雅子監修、山根みどり訳の『幸せになれる人バカな人生を送る人のお金の法則—カリスマ・ファイナンシャル・プランナーに教わる』(エレファントパブリッシング、2007)だ。
この翻訳を私は、まだ読んでいない。すみません。これは、2003年に出たLaw of Moneyの翻訳だ。
ともあれ、彼女は、ずっとそこそこ知られた「カリスマ・ファイナンシャル・プランナー」だった。しかし、彼女が、ほんとうに、ほんとうに、ブレイクしたのは、リーマン・ショック後だ。
それまでは、単に堅実な信頼できる女性金融アドヴァイザーだった。日本で言えば、「荻原 博子」さんの感じかな?
スージー・オーマンは、金融に関する知識に疎い女性たちに親身に助言するので、女性には特に人気があった(まあ、2007年にカミング・アウトしたように、彼女はレズビアンで、2010年に女性と結婚している)。
経済状況が悪化したアメリカにおいて、スージー・オーマンは、それまでのアメリカ人の享楽的な消費生活による借金漬けの人々に、ガンガンと具体的な、非常に具体的な助言をすることで、より一層の人気を獲得した。
「外食はやめなさいよ~~」とか、「クレジット・カードを使って買い物はしないこと!」とか、「自動車を買い替えるのはやめなさい~~クルマは、10年から15年は乗るものよ~~」とか、「その借金はあなたには返せない!もうサッサと自己破産するべき!やり直すには、それしかない!」とか、「学生ローンは危険な借金よ。これは自己破産できないのよ~~だから金利の低いものから返済しましょう」と、ガンガンと彼女は言う。
歯に衣着せず、しかし、情熱を込めて、親身に、率直に、ガンガンと、しかし丁寧に、噛んで含めるように彼女は諭す。
その助言は、実に泥臭く野暮ったく細かい。しかし、ここまで地に足のついた堅実で現実的な助言をするような女性金融アドヴァイザーなんか、それまでいなかったからね。
「スージー・オーマン・ショウ」には、視聴者が、自分の抱えているおカネ問題を相談する”1-on-One”というコーナーがある。映像の一部は、インターネットで視聴することができる。ちょっくら覗いてみてください。面白いよ。ここね!
http://www.cnbc.com/id/100033415
ちょっと3例ほど紹介する。
2014年1月4日放送から。ヴァージニア州のデイヴ(Dave)という42歳の白人男性は、このように相談する。
「僕は42歳です。空軍の曹長(master sergeant)です。24年間軍隊にいました。あと7ヶ月で退職(retirement)です。退職は軍からの命令(mandatory)です。結婚して16年で、子どもは4人います。12歳と9歳と8歳と5歳です。妻は専業主婦(stay-at-home mom)です。月収は手取り$4.374で、ほとんど生活費で消えて、残りません。退職金は出ないです。問題は、除隊すると、今まで住んでいた軍人用住宅から引越ししなければならないことです。貯金(emergency fund)は$4373しかないです。クレジット・カードの借り入れが$72,000(700万円だ!)あります。返済できません。自己破産を申請したほうがいいでしょうか」
クレジット・カードの借り入れが、日本円で換算すれば、700万円以上というのは驚く。これは、物価が日本より安いアメリカでは、1000万円の感じだ。しかし、複数のカードを持って、使用限度額まで借りまくれば、すぐにこれぐらいになるだろう。
相談者のデイヴさんは、とても気の良さそうな男性である。はっきり言って、かなり鈍い感じだ。「のんきな父さん」って感じだ。42歳で「曹長」だから、出世は遅い。相当に遅い。
陸軍ならばウエスト・ポイントとか、その種のエリート軍人養成学校出とは違う。だから出世が遅かったのかな。24年空軍にいて、今は42歳だから、入隊は18歳だから、大学は行っていないはずだけれども、マネージメントの学士号を持っていて、除隊するまでは、ファイナンスのMBAも取得するつもりだとデイヴさんは、言っている。空軍在籍のままに、大学に通ったのかな。通信制大学もあるしなあ。
だからこそ、すでに42歳にして退職しなければならない。
のわりには、幼い4人の子どもがいる。計画性がない。できちゃった!って感じだ。この4人の子どもにカネがかかるのは、これからなのに・・・
退役軍人(veteran)の就職は難しい。一般社会で通用するスキルや知識に乏しいからだ。俳優のゲイリー・シニーズ(Gary Sinise :1955-)などは、見るにみかねて、退役軍人のための再就職斡旋機関や、職業訓練所などを、私財で立ち上げたくらいだ。
(Gary Siniesです!)
私は、この俳優さんが好きだ。いい俳優さんである。トム・ハンクスの『フォレスト・ガンプ』に出演していたね。この俳優さんは、よく軍人の役を演じる。その関係で、退役軍人さんの生活の困難さを知る機会が多かった。身体を張って、命を賭けて、国に尽くしてきたのに、軍人の生活は恵まれないのだ。特に退役後は。
さて、空軍の退役が近い42歳のデイヴさんのこの相談に対して、スージー・オーマンは、以下のように助言する。
1 クレジット・カードを使用しないこと。
2 奥さんに働いてもらうこと。子どもも大きいから、家にいることない。
3 退職まで、まだ7ヶ月あるから、あなたは次の職を見つけることに全力を注ぐこと。
4 子どもたちに、誕生日のプレゼントとかは当分しないこと。借金を返済するまでStop giving gifts!
5 退職後は、ノース・ダコタに引っ越すこと。あそこは、全米で一番に失業率が低い。物価が安い。そこで職を探し、住居も探すこと。中西部は、子供の教育にもいい。環境もいい。今のヴァージニア州よりいい。
6 まだ自己破産するのは、早い。その前にできることを、ちゃんとやってみよう。
実に具体的だ・・・
そして、この酸いも甘いも噛み分けた女性は、最後にこう付け加えることを忘れない。Thank you very much for everything you did for this country, Sirと。「今まで、アメリカのために尽くしてくださって、ありがとうございました」と。
スージー・オーマンは、この20歳も年下の軍人さんに対して、最初から最後まで、ちゃんとSirと敬称をつけて、話している。国防のために働いてきた軍人への敬意を断じて忘れない。
こーいうところも、スージー・オーマンが、視聴者の心を掴む理由だ。人情の機微をわきまえている。温かい女性である。
それにしても、私が驚くのは、彼女に相談するアメリカ人たちだ。
アメリカの視聴者参加番組ってのは、ほんとに、視聴者があけすけに自分の私的問題を相談する。そりゃ、参加すれば、そこそこ高額なギャラが出るのだろうけれどもさあ。
しかし、私的個人的問題の中でも、moneyカネという実に微妙な、実にリアルな生々しいことまでも、こうもあけすけに言えるもんだろうか、テレビで、しかも現役の軍人が?
クレジット・カードのローンが700万円以上あるってさあ。顔も名前もさらしてさあ。「自己破産したほうが、いいですかねえ?」なんてさ。空軍の軍人が?
しかし、わざわざスージー・オーマンに相談しなくたって、自分で考えれば、わかるようなことじゃないだろうか?自己破産を申請するのは最終的手段であって、まずは家計で節約できることは全部やってみるとか、奥さんも働くとか、自分は必死に再就職活動をしてみるとかさあ。
こういう相談者もいたよ。
2013年10月22日放送から。37歳の黒人女性のミシェル(Michelle)。ニューヨーク在住。仕事は秘書で、子どもは6歳と3歳で、ひとりで育てている。
ミシェルさんは、1年前から友人に誘われてカジノに行くようになった。ギャンブルをするようになった。そのために貯金も消えて、退職用積立金も使ってしまった。
今は、月収が2,016ドルなのに、クレジット・カードの借入金($78,570)の月賦返済金とマンション(condominium)のローン($350,000)の月賦支払いや、自動車のローンの支払いを入れて、月に4,344ドルが消える。で、「どうしたらいいでしょうか?」という相談だ。
「どうしたらいいでしょうか?」なんて、他人に聞くまでもないよねえ、このケース。収入の2倍以上が支出では、どうしようもない。
だいたい月収2,000ドル=20万円くらいで、マンションを買えるのか?アメリカの銀行も、まだまだいい加減なんだな。審査してないよな。3000万円以上のローンを、なんで組めるんだ?この収入で、なんでギャンブルする気になれるんだろうか? 頭がおかしくないか?
しかし、スージー・オーマンは、呆れたような顔は決してしない。誠実に親身に熱をこめて、ミシェルさんを、以下のように説得する。
1 まず、自己破産を申告すること。そうすれば、マンションのローンも、クレジット・カードのローンも返済しないですむ。
2 自動車も手放して、公共交通機関を使うこと。
3 お母さんの家に引っ越して、月に300ドルから500ドル払って住まわせてもらうこと。
4 2年間は、こどもにプレゼントを買わないこと。
5 子ども与えていた、父親とのおしゃべり用の携帯電話は解約すること。
6 子どもにさせているスペイン語のレッスンはやめさせる。必要ないから。
7 休暇に旅行に行かないこと。
ともかく、そうすれば、あなたの月収の範囲で生活はできる、と。子どもたち に、きちんと自宅のテーブルで食事を与えたいのならば、そうするしかないの よ、と。
ミシェルさんは、「自己破産したら、5年間はローンを組めないですねえ」と、ちょっと不満げに言う。
それに対して、スージー・オーマンはこう言う。
Stop living in the future! Stop living in the past! Live in the present!
今、やらなければならないことをしなさいよ。先のことはいいの。昔のことはいいの。現実を直視して受け容れるしかないのよ、と。
この相談者のミシェルさんは、ほんとに無茶苦茶だ。なんで月収2,000ドルくらいで、子どもにスペイン語を習わせるための月謝が払えるのか?子どもに携帯電話を持たせるなんて、これもわからない。
このミシェルさんも、気のいい人だ。見るからに、ノホホンとしている。子どもの喜ぶ顔が見たくて、ついつい休暇の旅行とかしちゃうし、プレゼントも奮発するんだろう。
こういう相談者もいた。
2013年9月14日の放送から。ニューヨーク在住の43歳の栄養士のジーン(Jean)さんは、もうすぐ離婚する。11歳の娘は、彼女が引き取る。ニューヨークの家は売却して、売却金は夫と折半することになっている。問題は、離婚後移住する予定の南カリフォルニアに、ものすごくいい物件が見つかったのだけど、それを買うカネがないということ。
見晴らしもいいし、娘が通う予定の学校にも近い。しかし、銀行は彼女に融資してくれない。ニューヨークから移住した先での彼女の経済力が保証できないからだ。
それでも、ジーンさんは、今すぐに、その物件が欲しい。「どうしたらいいでしょうか?」というのが、ジーンさんの質問。「退職後用に積み立ててあるお金を引き出せば、その家は手に入るけれども、そうした方がいいでしょうか」というのも、質問。
アホかいな。これも、考えるまでもないよね。離婚という人生の大ショック、大ストレスにさらされているときに、なんで家なんか買うんだ?? 判断が正常じゃないに決まっているのに。ましてや、金はないのだ。
しかし、スージー・オーマンさんは、ジーンさんに丁寧に語りかける。
1 まず、その家は、お嬢さんが独立して出て行ったあとも、生涯、あなたが住みたいような家か?
2 あなたは若いのだから、この先、どのように人生が展開するかわからないのだから、今は賃貸住宅でいいのではないか?
3 退職後用に積み立ててあるお金は、絶対に手をつけてはいけない。老後に頼れるのは、まずはお金なのだ。
至極もっともな助言だ。
アメリカ人は、特に今の中年ぐらいまでのアメリカ人は、景気のいい時代を生 きてきたので、どうも甘い。自分の欲望の制御ができない。
「引き寄せの法則」(law of attraction)みたいなもんを信じて、いいことを思い描けば、いいことしか起こらない、貧乏で苦しむなんてこと想像したら、ほんとに貧乏になる・・・という調子で生きてきた能天気な人々だ。
それは、アメリカの産業界の要請でもあった。どんどん消費させて、新商品に人々が飛びつくようにさせないと、物は売れない。
物を売るためには、クレジット・カードで借金してでも、カネを使って買うように消費者を煽らねばならない。
アメリカでは、株や投資について小学生に教える。しかし、借金の怖さは教えない。豊かな物の溢れた生活の便利さは教えても、収入の範囲内で生きていく自己制御は、教えない。
まあ、日本でも教えないけどね~~それでも日本は、アメリカのような豊かさを享受する前に、「失われた20年」で景気失速の不景気時代が長いので、人々の財布は固く閉じられている。
が、アメリカ人は、まだまだ慣れていない。自己抑制は辛く痛いことなのだ、アメリカ人にとって。
(転載終わり)
私としては、このThe Suze Orman Showみたいなものが日本のテレビ局が作らなかったのは、ちょっと残念だ。
日本風にソフトにして作っても、そこそこ面白いと思うけどねえ~~
若い子やガキにとっては、勉強になると思うよ。
進路の選び方や職業の選び方も、真剣になってくるだろう。
カネは沸いて出てくるものではなく、誰かの労働によって蓄積されるということもわかるだろう。
カネを便利な道具としてクールに見つめ、かつカネに支配されず、カネから解放されつつカネの重要性を直視できるようになるためには、時間がかかる。
カネについて楽しみながら勉強するための装置としてのテレビ番組として、こーいう家計金融番組っていいと思うけどねえ~~
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